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第二章

◇7 よく頑張りました

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 今日は何故か寝室で捕まってしまっている。ベッドから全く出してもらえない。朝目が覚めてからかれこれ数時間ずっとこのまま。朝食は食べたけど寝室でだし、またベッドに戻されたというわけだ。


「あの、俺、図書室行きたいんですけど」

「ダメだ」

「何でですか」

「俺が無理だ」

「……いや、だったら一人で寝ててくださいよ」

「リュークがいないと意味がない」

「……」


 あ、はい、そうですか……と、呆れてしまう。腹ん中の赤ちゃんに呆れられても知らないぞ。

 医者には少し運動をした方がいいって言われてるんだけどなぁ……なんて思いつつ、もう一つ医者に言われたことを思い出した。

 顔を合わせて寝っ転がっているだけなんだが……俺は起き上がり、ヴィルの肩を押して仰向けにさせ、ヴィルの腹にまたがった。


「重い?」

「軽い」

「……流石ですね、辺境伯様」

「それは関係ない」

「いや、白ヒョウに一人で立ち向かえるくらい強いんですから。もし赤ちゃん生まれたらいっぱい武勇伝聞かせてあげましょうね」

「俺のはつまらん。それよりリュークがここに来てからの話を聞かせてやれ」

「二人で雪だるま作った話? ヴィルがブサイクだなって言ったのまだ覚えてますからね」

「根に持ってるのか」

「さぁ?」


 と、言いつつ……少し後ろに下がった。ヴィルが少し顔を強張らせたのを俺は見逃さなかった。


「……リューク、降りろ」

「どうして? 医者は大丈夫って言ってたじゃないですか」

「だが……リュークは身重なんだぞ。無理はさせたくない」

「無理なんてしませんよ。それに、そこはヴィルが調節してくれるでしょ」

「……」


 俺が妊娠してから一ヶ月以上経った。エッチはもちろん、キスすら全くしていない。このキス魔なヴィルがだぞ。妊娠する前なんてもう一週間に何回もシてたのによく我慢出来るなこの人。

 医者なんてニコニコしながら「ベッド上での夫婦のスキンシップも大丈夫ですよ」と言ってきたし。その時俺の顔はだいぶ熱くなってたのを覚えてる。いきなりそんな話するなって言いたかった。

 でもその時のヴィルは俺に全く顔を見せなかった。一体何を思ったのやら。いや、覚悟でも決めてたか?


「……何です、こんなに腹出た俺だとえます?」

「そんな事はっ! ……ないが」

「じゃあどうしてですか」

「……」


 右に目を逸らして視線を全く合わせてこない。それまで我慢強かったか。いや、もうギリギリか?


「妊娠して結構経ってるのに、ヴィルにキスしてもらえないのは寂しいなぁ~」

「う"っ……」

「メイド達に教えてもらったんですよ。男が浮気するのはこういう時だって。奥さん妊婦になると色々と我慢させられちゃうから、我慢が出来なくて他に手出しちゃうんですって」

「浮気はあり得ない!」


 うわぁ、めっちゃ力入ってたな。


「ふ~ん、本当に?」

「本当だ。信じられないか?」

「いや信じますけど。でも俺ずっと口寂しいんですよ。これ全部今まで何回も何回もヴィルがチュ~してきたのが原因ですからね。責任、取ってください」


 そうだそうだ。これは全部ヴィルが悪い。ヴィルのキス魔が移ったんだ。俺のせいじゃない。

 なんて思っていたら、ヴィルのクスクス笑い声が聞こえてきた。


「そうか、俺のせいか」


 そう言って、上半身を起き上がらせてきた。


「リュークに無理はさせたくないし、身体に負担もかけさせたくない。分かってはいるんだが……キスなんてしたらそれ以上は我慢がまん出来そうになかったんだ。これだけ我慢がまんさせられたんだ、リュークに無理をさせてしまうのは目に見えてるからな」

「医者はOKって言ってましたけど?」

「本当に酷いな、俺の妻は。俺の忍耐力でも試しているのか? これまで拷問ごうもんに耐えてきた俺の頑張がんばりをめてもらいたいものだな」


 あーはいはいそうですかー。

 その様子だと、だいぶ頑張っていたようだな。妊娠してからどれくらい経った。偉いな。


「じゃあ、頑張がんばったヴィルにはご褒美ほうびが必要ですね」


 そう言いつつ、ヴィルの両頬を両手で包み、キスをした。その行動にヴィルは……俺の頭の後頭部を手で押さえてきた。だいぶ久しぶりだったからちょっとびっくりはしたが。長いキスの後、すっごく大きなため息をついて。


「俺の妻は本当にひどいな。なら、ご要望には全力でお答えしよう」

「やった」


 くるっと回りヴィルと俺の位置を前後ろ入れ替えられて、後頭部と背中を抑えゆっくりとベッドに寝かされた。そしてヴィルが覆いかぶさる。


「二人分、愛させてくれ」

「はい、ど~ぞ」


 二人分、って所がすごく嬉しい。

 そして、甘い甘いキスを交わした。

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