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第二章
◇5 全然実感が湧かない
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その日を境に、生活環境ががらんと変わってしまった。
「いいですか、奥様。絶・対・に! ご無理をなさらないようお願いいたします。もし異変を感じましたら自分で何とかしようと考えずすぐ周りの者達に知らせてください、すぐにお医者様をお呼びいたします」
「あ、うん。分かった」
ピモにだいぶ強く言われて。
「奥様、お加減はいかがですか?」
「外は寒いですから絶対に外に出てはなりませんよ。もし雪だるまをご所望でしたら僭越ながら私達が作って持ってまいりますのでお申し付けください!」
「奥様、野菜温室はお預けですからね」
周りの使用人達にもそう言われて。もうだいぶ心配されている、というか過保護、というか。
まぁでも、そんな事を考える余裕は今の俺にはない。今日の朝だって……
「大丈夫か」
「ダメ、無理……」
座ってるヴィルの膝に乗り抱きしめていた。頭をヴィルの肩に乗せてぐったりだ。
「……朝ご飯、食べたかった」
「仕方ないだろ。無理して食べなくていい」
「せっかく、作ってくれたのに……」
「料理長達は気にしていないから安心しろ。むしろだいぶ心配していたぞ」
「……ほんと?」
「あぁ。料理長はずっと前からここにいるから、母上が妊娠した時の食事事情もちゃんと知っている。だから安心しろ」
「……はい」
気持ちの上がり下がりがだいぶある。いつも通りに、というのが難しいし、色々周りにある匂いもキツい。
「……バラの間、行きたぃ……」
「落ち着くまで我慢だ」
「……ん」
花の匂いもアウトだった。あそこ、落ち着くんだけどなぁ……でもしょうがないな。
「……ヴィルの匂い、落ち着く……」
「……」
この時、ヴィル自身も色々と戦っていたことは、今の俺は知らなかった。
だが、おかしな事にミンスだけは食べられた。いやぁ、美味いな。最高。最近分かった事で、これには栄養がたっぷり入ってるらしい。まぁ食べ過ぎはダメだけど。でも食べられるものがあるのは嬉しい事だ。
まぁ、ここの研究員の腕もすごいけどな。栄養たっぷりってどうやって調べたんだろ。
……けど、そういえばジローが俺の匂いだいぶ嗅いでからミンスを持って帰ってきたんだっけ。それからミンスを大量に持ってきたわけだが……
白ヒョウって鼻がだいぶ利くらしいけど……いやぁ、まさか、な。
そんな事が続き、ようやく安定期に入ることが出来た。その頃には俺も、ヴィルもだいぶ疲れていたけれど。
でも食欲がちゃんと出てきた。ちゃ~んとぱくぱく食べられるようになり、ヴィル達はホッとしていた。もう分かりやすいくらいに。
「やっぱり料理長の料理は最高だな~♡」
「そう言っていただけて光栄です……!」
「奥様がちゃんとお食事をされる姿を拝見できもう感激です……!」
「リューク、もっと食え」
「あーん」
周りの使用人達はもう感激ムード。中には泣き出すやつまでいた。そしてヴィルは俺の口にどんどん突っ込んでくる。それだけ不安だったんだろうなぁ。つわり酷かったし。でもそんなに長い期間でもなかったけど。
けど……問題が一つ。……腹が出てきた。
分かるよ? それだけ俺の腹の中にいる赤ちゃんが成長してくれたってことだって。でもさ、腹出てくるまで妊娠したっていう実感湧かなかったし。そりゃ、男の俺は前世では自分が妊婦になるなんて全っっっ然思いもしなかった。だから混乱してるって言うのかな。そんな感じで。
だから、最近ようやく食欲が出たのもあって太ったっていう感覚に陥るんだよ。分かるか? この気持ち。
まぁでも、しょうがない、で割り切るしかないよなぁ……うん、腹ん中の赤ちゃんが成長したんだから喜ばしい事だよな、うん、分かってる。
なんて思いつつ、今日もヴィルの膝に乗っている。
「……最近こればかりだな」
「お腹もっと大きくなったら座れないじゃないですか。だからその前に乗っておこうと思いまして」
「そうか」
前からよくヴィルの膝に乗ってた、いや、乗せられてた。けど、なんか癖になってきちゃってるのかどうかは知らないけど、何となくそう思ってしまう。
仕事の邪魔になってしまうのは分かってるけど……これで仕事のやる気が出ると本人は言ってるからいいだろ。つわりの時期は全然執務室に行きたがらなかったから、やる気を出してもらわなきゃこっちも困るし。
あぁ、ちなみに言っておくと、俺がつわりが終わったあたりにヴィルは一度首都に行っていた。俺が首都に行かないための最善策として子供を作ったわけで。だから妊婦をこんな冬の地で外に出せるわけがないと言いに行ったのだ。
大丈夫かな、と思って待っていたんだが……王様は来なくてもいいと言っていたそうだ。
「子供が19人もいらっしゃる陛下なら、身重の母親の苦労も十分に分かっている事でしょう」
と、言ったらしい。たぶん、その時のヴィルの顔は恐ろしかったことだろう。その場にいなくてよかった。
なんて日々が過ぎ、どんどんお腹の赤ちゃんが成長していったのだ。これで無事大きくなって元気に生まれてくれるのなら嬉しいな。
早めに怖~い出産の覚悟も決めておかないといけないけど。恐ろしくてしょうがない。
「いいですか、奥様。絶・対・に! ご無理をなさらないようお願いいたします。もし異変を感じましたら自分で何とかしようと考えずすぐ周りの者達に知らせてください、すぐにお医者様をお呼びいたします」
「あ、うん。分かった」
ピモにだいぶ強く言われて。
「奥様、お加減はいかがですか?」
「外は寒いですから絶対に外に出てはなりませんよ。もし雪だるまをご所望でしたら僭越ながら私達が作って持ってまいりますのでお申し付けください!」
「奥様、野菜温室はお預けですからね」
周りの使用人達にもそう言われて。もうだいぶ心配されている、というか過保護、というか。
まぁでも、そんな事を考える余裕は今の俺にはない。今日の朝だって……
「大丈夫か」
「ダメ、無理……」
座ってるヴィルの膝に乗り抱きしめていた。頭をヴィルの肩に乗せてぐったりだ。
「……朝ご飯、食べたかった」
「仕方ないだろ。無理して食べなくていい」
「せっかく、作ってくれたのに……」
「料理長達は気にしていないから安心しろ。むしろだいぶ心配していたぞ」
「……ほんと?」
「あぁ。料理長はずっと前からここにいるから、母上が妊娠した時の食事事情もちゃんと知っている。だから安心しろ」
「……はい」
気持ちの上がり下がりがだいぶある。いつも通りに、というのが難しいし、色々周りにある匂いもキツい。
「……バラの間、行きたぃ……」
「落ち着くまで我慢だ」
「……ん」
花の匂いもアウトだった。あそこ、落ち着くんだけどなぁ……でもしょうがないな。
「……ヴィルの匂い、落ち着く……」
「……」
この時、ヴィル自身も色々と戦っていたことは、今の俺は知らなかった。
だが、おかしな事にミンスだけは食べられた。いやぁ、美味いな。最高。最近分かった事で、これには栄養がたっぷり入ってるらしい。まぁ食べ過ぎはダメだけど。でも食べられるものがあるのは嬉しい事だ。
まぁ、ここの研究員の腕もすごいけどな。栄養たっぷりってどうやって調べたんだろ。
……けど、そういえばジローが俺の匂いだいぶ嗅いでからミンスを持って帰ってきたんだっけ。それからミンスを大量に持ってきたわけだが……
白ヒョウって鼻がだいぶ利くらしいけど……いやぁ、まさか、な。
そんな事が続き、ようやく安定期に入ることが出来た。その頃には俺も、ヴィルもだいぶ疲れていたけれど。
でも食欲がちゃんと出てきた。ちゃ~んとぱくぱく食べられるようになり、ヴィル達はホッとしていた。もう分かりやすいくらいに。
「やっぱり料理長の料理は最高だな~♡」
「そう言っていただけて光栄です……!」
「奥様がちゃんとお食事をされる姿を拝見できもう感激です……!」
「リューク、もっと食え」
「あーん」
周りの使用人達はもう感激ムード。中には泣き出すやつまでいた。そしてヴィルは俺の口にどんどん突っ込んでくる。それだけ不安だったんだろうなぁ。つわり酷かったし。でもそんなに長い期間でもなかったけど。
けど……問題が一つ。……腹が出てきた。
分かるよ? それだけ俺の腹の中にいる赤ちゃんが成長してくれたってことだって。でもさ、腹出てくるまで妊娠したっていう実感湧かなかったし。そりゃ、男の俺は前世では自分が妊婦になるなんて全っっっ然思いもしなかった。だから混乱してるって言うのかな。そんな感じで。
だから、最近ようやく食欲が出たのもあって太ったっていう感覚に陥るんだよ。分かるか? この気持ち。
まぁでも、しょうがない、で割り切るしかないよなぁ……うん、腹ん中の赤ちゃんが成長したんだから喜ばしい事だよな、うん、分かってる。
なんて思いつつ、今日もヴィルの膝に乗っている。
「……最近こればかりだな」
「お腹もっと大きくなったら座れないじゃないですか。だからその前に乗っておこうと思いまして」
「そうか」
前からよくヴィルの膝に乗ってた、いや、乗せられてた。けど、なんか癖になってきちゃってるのかどうかは知らないけど、何となくそう思ってしまう。
仕事の邪魔になってしまうのは分かってるけど……これで仕事のやる気が出ると本人は言ってるからいいだろ。つわりの時期は全然執務室に行きたがらなかったから、やる気を出してもらわなきゃこっちも困るし。
あぁ、ちなみに言っておくと、俺がつわりが終わったあたりにヴィルは一度首都に行っていた。俺が首都に行かないための最善策として子供を作ったわけで。だから妊婦をこんな冬の地で外に出せるわけがないと言いに行ったのだ。
大丈夫かな、と思って待っていたんだが……王様は来なくてもいいと言っていたそうだ。
「子供が19人もいらっしゃる陛下なら、身重の母親の苦労も十分に分かっている事でしょう」
と、言ったらしい。たぶん、その時のヴィルの顔は恐ろしかったことだろう。その場にいなくてよかった。
なんて日々が過ぎ、どんどんお腹の赤ちゃんが成長していったのだ。これで無事大きくなって元気に生まれてくれるのなら嬉しいな。
早めに怖~い出産の覚悟も決めておかないといけないけど。恐ろしくてしょうがない。
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