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第二章

◇2 ここ、お前んちじゃないんだぞ

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「……は? 戻ってきた?」

「は、はい……」


 いつものように執務室でヴィルに捕まっていたところに、慌てた騎士がやってきた。ゼーハーゼーハー息切れをしつつも口から出した言葉がそれだった。


「今、団長が対応しているのですが、おかしな事が起こってまして……口に〝ミンス〟が3つほど実っている枝をくわえて来たんです」


 ミンスって言ったら……あの伝説級のめっちゃ美味いフルーツの事だよな。めっちゃ甘くてみずみずしいやつ。あぁ、思い出しただけでもよだれが……じゃなくて。

 え? プレゼント? でもそれ以前にもあったよな。騎士達にプレゼントされたって。それのどこがおかしいんだ?


「ですが、僕達に渡す気がないらしく、そっぽを向いてしまっていて……まるで誰かを待っているように見えるんです」

「待ってる、か……」


 団長が対応しているって事は、団長じゃないって事か。あんなに仲良くしてたのに。じゃあ、一体誰を待ってるんだ?


「今どこにいる」

「以前入っていたおりにいます」

おり?」

みずから、入っていきまして……」


 ……マジ? 自分から入ったのか?


「白ヒョウの方から、入り口に向かったという事か」

「はい。扉を開けてみたら嫌がることなく、さも当然のように入っていきました」


 え、マジ? もしかして、そこ、自分の部屋だと勘違いしてるのか?

 今までおりの中では、マタタビを使う前は嫌がってはいたけれどあばれたりはしていなかったと言っていた。こちらを睨みつつうなって威嚇いかくしていたそうだ。

 でもマタタビを使った後は大人しくしてたみたいだし……そこが慣れちゃった感じ?


「マロに、というわけでもありませんでした」

「入り口は閉めたのか」

「は、はい、入った後すぐに」

「ならすぐに行く」

「ヴィル」

「ダメだ、ここにいろ」

「あ、いえ、そうじゃなくて……」


 今、白ヒョウが変な行動をとっている。そんな時にアメロの俺を近づけさせるなんてヴィルは絶対にさせないと分かってる。おりに入ってるから危険度は低いかもしれないけれど、俺がいたら邪魔になっちゃうのも分かってる。

 でも、そうじゃない。


「……大丈夫だ、おりにいて大人しくしているのであれば、こちらから傷つけたりすることはない」

「……ほんと?」

「あぁ。だから大人しくここで待っていてくれ」


 うん、とうなずくと頭を撫でてキスをしてくれた。近くにいるピモに、リュークを頼むぞ、と一言残して騎士と一緒に部屋を出ていった。

 ジローが、戻って来たのかぁ……どういう事なんだろう。何もなければいいんだけど。


「……ジロー、ここが自分ちだと思ってるのかな」

「その可能性はありますね。みずから入ったみたいですし」


 ペット、増えちゃった感じ? まぁよく分らないけど。


「……それともマロ? ここに一人でいるのは寂しいだろうからって来たのかな。ミンスは……菓子折り的な?」

「ん~、どうでしょうか」


 もしそうだったとしたら礼儀正しい紳士だな。ジロー、意外とやるな。かっこいい。まぁヴィルほどではないが。

 それよりも、さ。


「……俺、ここに座っちゃってていいのか? メーテォス家当主でもないのに」

「よくお似合いですよ」


 ここ、当主席的なところだろ。いいのか? 俺座っちゃって。ヴィル立つ時俺持ち上げて、立った時に自分が座ってた所に俺座らせたんだよ。いいのか? と思ってるんだけど、結局ずっとここに座っている。


「……落書きしちゃうぞ?」

「旦那様なら喜ぶと思いますよ」

「いやそれダメだろ」


 うん、確かにクスクス笑ってきそうだけれども、でもさすがにせっかく頑張って仕事しているのに邪魔とか余計な事はしたくないから。ヴィルに余計な時間は作ってほしくないし。もしそんな時間があるのであれば休んでほしいと思ってる。


「……ミンス食いたい」

「旦那様方への菓子折りでしたらどうぞこの後旦那様とお召し上がりください」

「3つあるならみんなで一緒に食べようよ。めっちゃ美味いよ」

「それは嬉しいですね。楽しみにしています」


 いやぁ、あの味は絶対に忘れられないね。先代? 先々代? の当主様が日記に残す気持ちが分かるよ。残してくださってありがとうございました。

 なんて期待しつつも、ちゃんとヴィル達の心配もして報告を待っていた。何事もなく終わるといいんだけど……こんなに長いと不安になる。ジロー暴れた? それともヴィルか。ヴィル暴れたのか!? 怖い怖い建物壊れるって。


「……地面、揺れてないな」

「いや、それはないでしょう」

「そうか?」


 なんて話をしていたら戻ってきた。ヴィルが。……けど、なんか不機嫌? 何があったんだ?

 不機嫌顔で黙り込んでいたヴィルは、何故かいきなり俺を抱っこしてきた。そして執務室を出た。全く訳が分からず、あーれーとされるがままに連れてかれてしまった。


「どこに行くんです?」

「心配なんだろ」


 あ、ジローのところか。連れてってくれるって事は収まったって事か。

 ヴィルの格好は乱れてない、という事は暴れていないという事か。うん、よかった。


「呼んでたの、ヴィルだったんですね。ジローにだいぶ好かれちゃってるじゃないですか」

「いや、俺じゃない」

「……え?」


 ヴィルじゃないの? だって、白ヒョウを操ったこのメーテォス辺境伯様だぞ? 違うの?

 どういう事です? と聞いてみたけれど、行けば分かるとだけ言われてしまい。全然分からないまま、白ヒョウの部屋に着いてしまった。

 すると、ニャオ~ン! という鳴き声が聞こえてきた。あ、いた、ジロー。というか、枝くわえてるのによく鳴き声出せるなこいつ。


「連れてきたぞ」


 ジローに話しかけているらしい、ヴィルがジローのいるおりに俺を抱えて近づいた。口にくわえたミンスの付いた枝が見える。

 するとジローは、しっぽをぷるぷるさせて頭を楽しそうに振って枝を揺らして見せた。


「……俺?」

「だ、そうだ」


 マジかよ。そんなに仲良くなってたのか俺達。マブダチ? 俺知らなかったわ。

 でもヴィルさんよ。なんで俺を呼んでるって分かったんだよ。もしかして白ヒョウ語出来るのか? すご。何でも出来るのか、このイケメンは。あ、ネーミングセンスはないけど。でもさすがだよ。

 ジローは隣にいる団長に枝を渡し、俺に渡せと言わんばかりに視線を向けてきていた。


「ありがと、ジロー!」


 とっても満足そうにニャウン! と返事をしてきた。

 俺も、会話出来てるのか?

 でも、ジローここに居座る気か? 満足そうな顔で座っちゃったんだけど。

 けれど、そういえばとあの時の事を思い出した。


「……あの、ヴィル。もしかして……俺が風邪の時、」

「あぁ、乗ったのはジローだ」


 ……なるほど。雪山の中を白ヒョウに乗って薬草を探し回ったと聞いたけれど、乗った白ヒョウがジローだったとは……もうジローとヴィルは相棒的な? それとも主従関係出来ちゃってる?


「……食べますか」

「人騒がせではあったが、せっかく持ってきてくれたんだ。溶けるまで時間がかかるから夕食にでも食べようか」

「はいっ!」


 よっしゃぁ! 極ウマフルーツがこの後食べれるぞ~!

 というかジロー、マロには全く見向きもしてないな。紳士じゃなかったのかよ。



 この時は、この後とんでもないことが起こる事も、白ヒョウがどうしてこのフルーツを持ってきたのかも、分からなかった。

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