30 / 59
◇30 はい、つまみ食い常習犯です
しおりを挟む
でもさ、どこから話した方がいいのか分からん。
「ベレス暦15年3月7日生まれの第15王子です」
「知ってる」
「え、俺ヴェルの誕生日知らないんですけど」
「12月17日」
へぇ~真冬か。そこら辺だとここはどんな感じなんだろ。吹雪もっと酷くなる? え、怖いんだけど。
「好きな食べ物はパスタ。けどここに来て変わりました」
「じゃがいものポタージュ」
「よく分りましたね」
「見てれば分かる」
そんなに分かりやすいのか、俺。表情は出さないようにしているはずなんだけど……バレバレか。それに比べてヴィルは結構表情出さないから分かりにくいよな。伝授してもらうのもいいな。
あ、でも最近笑うようになったんだっけ。最初とは全然違う。イケメンなんだから笑ってた方が得だよ、得。
「嫌いなものは……辛いものと苦いもの? あ、昔小さい頃、5歳だったかな、ププメリだと思って普通に食べたらパパルスで大泣きしたことがあります」
「あぁ、似てるからな。そのままのを皮ごといったのか」
「……まぁ、つまみ食い? 死ぬかと思いました。使用人達には自業自得だって言われましたけど」
「確かに5歳の子供にあの味は無理だろうな」
「はい、だからもう見るのも嫌なんですよね」
「料理長に言っておく」
「お願いします」
ププメリもパパルスもマスカットみたいな果物だ。ププメリはすっごく甘酸っぱくてめっちゃ美味いんだよ。それに比べてパパルスはそのまま食べると、すんげぇ苦いカカオと一味唐辛子を混ぜたような味になる。
本来なら皮をちゃんと剝いて茹でてから冷やして食べるもんなんだけど、あれは本当にダメだって。死ぬかと思ったよ。水飲んでも甘いもん食っても全然治まらなくて大変だったんだから。
マジで自業自得。ごめんなさい。
「やんちゃだな。つまみ食い常習犯か?」
「笑わないでください」
「笑ってない。可愛いなと思っただけだ」
「それ、本当に思ってます?」
「思ってる」
本当か?
「離宮では、教育とかは他の兄弟達と同じものを受けさせてもらえなかったので使用人達に教えてもらいました。それでも暇だったんでいろいろやりましたよ。本もいっぱい読みましたし、庭とかいじったり、ナイフも離宮の衛兵に習ったし、絵も本を見てやってみたし」
後何やったかな。歌もやったし楽器もやったし……あとは色々やりすぎて覚えてないや。でもこっちに支給されるお金には限りがあったからお金のかからないものばかりだった。
「本当はダメなんですけど、離宮の敷地内の外に出た事もあります。俺本宮には全然行ったことないから他の人達に会った事なかったんですけど、王族の証であるこの容姿ですからすぐわかっちゃって戻されちゃって」
そう、銀髪に青い瞳は王族の証。でも19人の王子の中でこの容姿なのは俺含め5人のみ。そしてアメロは俺のみだ。だからすぐに分かってしまう。
「……たぶん、使用人達はお叱りを受けちゃっただろうけど、あいつら声をそろえて何もなかったって言ってきたんですよ。ほんと、バカだなぁ……」
俺のせいなのに笑っちゃってさ。正直に言えばいいのに。
「あ、すみません変な話しちゃって」
「別にいい。……大事な家族、なんだろ」
「……はい」
ヴィルが頭を撫でてくれた。まぁ、思えばヴィルも家族なんだけどさ。でもそう思うとなんか変な感じなんだよね。結婚式もやらなかったし、結婚指輪もない。
この世界だと結婚式はあっても結婚指輪というものは存在しない。だから違和感を感じるのか。そうか、それか。
「じゃあそろそろヴィルの事教えてくださいよ」
「……」
「何でもいいですよ。小さい頃はどんな子でした?」
少しの沈黙。難しいか? ヴィルの頭は上にあるから顔は見えづらい。だからどんな顔をしてるか分からん。
「4歳から剣を持っていた」
「……4歳?」
「あぁ、先代から渡されて騎士団の奴らの鍛錬中に放り込まれた」
「……なるほど」
いや、なるほどって言っちゃってよかったのか? そもそもそれ、いいのか? 先代様、ちょっと鬼畜じゃあありません? いや、そもそもその教育方針ってどうなんですか?
でも、ヴィルの強さはそこから来てるのか? 遺伝子とかそっちもありそうだけど。
そんな時、
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ。
「……」
「……」
「……笑わないでください」
「リュークの腹はもう限界か」
「我慢しろって言ったのはどこのどなたです?」
「ククッ、話はメシのあとだな」
だぁから、笑うな。お前のせいだかんな。
言わずもがな、呼び鈴を鳴らしたらニッコニコなピモが現れ、食事が部屋に運ばれた。
そして、全くカトラリーを持たせてもらえず、ヴィルにご飯を口の中に突っ込まれた。軽いからもっと食えと言ってきたからかどんどん突っ込んでくるのでもう一本のフォークでベーコンらしきものをヴィルの口に突っ込んだが。
「さっさと食ってください」
「そんなにやりたかったのか」
「いや、俺ばっかでヴィル食べてないじゃないですか。俺これ以上食ったら胃が破裂しそうです」
「じゃあ食わせてくれ」
「遠慮なく口に突っ込みますけど」
「別に構わん」
あ、いいんだ。てかこいつ口デカいしな。だから結構ぽいぽい入れちゃったんだけど、まぁ楽しそうにしていたから別にいいか。
「リューク、明日は」
「明日? んー、野菜温室ですかね」
「それは後にして、時間を空けておけ」
「……何かあるんですか?」
「さぁな」
……すんげぇ気になるんだが。でもヴィルってこういうのは絶対教えてくれなさそうだし、明日分かるからいっか。
「え? 嫉妬ですよ?」
食事後にヴィルが呼ばれ、そのタイミングでピモに、ヴィルに何かあったのかと聞いたら、そう返ってきた。
……嫉妬?
「だって奥様、ずっと離宮の使用人の者達と楽しく話をしていたではありませんか。特に、旦那様の知らない昔の話とか」
「……マジ?」
「そうですよ。本当は使用人達をすぐにでも首都に戻したいと思っているでしょうけど、今回のように奥様に何かあった時、私達より付き合いの長い使用人達の方がすぐ対応できるでしょうし、一番は奥様が大切になさっている方達と離れ離れにしてしまうと奥様が寂しい思いをしてしまうのではと思っているのではないでしょうか」
あ、まぁ確かに付き合いは長いから俺薬が効かない事知ってたわけだし、そうかもしれないけど……いやいや、そんなに帰したいのか? あ、でも昨日俺の事教えろって言ってたな。マジ?
「奥様を独り占めできないし、他の人と楽しくしているから不機嫌なのですよ」
「……独り占め?」
「そうです」
「でもさ、ピモとか他の人達とも楽しく話してるよ?」
「それは相手がよく知ってる者で、相手も自分の事をよく知っているからです。離宮の者達とは今回初めて会ったわけですから何も知りません。奥様とどんな関係なのか、とかね」
……いやいや、あいつ等とはただの家族みたいなもんだぞ? まぁ確かに知らないやつらではあるけど……それで不機嫌になったのか。
嫉妬……ヴィルって嫉妬|《しっと》するんだ……しかも、知らないやつらと喋ってるだけで? え、マジかよ。
「かっ……」
可愛っっっっっ……
そんなので嫉妬しちゃったの? え、可愛いんだけど。嫉妬した後が怖いけど。でも可愛いだろこれ。嫉妬……嫉妬するんだぁ……そういうのって全然しないと思ってたのにさ。
あ、いや、俺の中のヴィル像ってやつ? 最近壊れ始めてるからこれでだいぶおかしくなっちゃってるわけだけどさ。ほら、恋しくなっちゃったり。なんかおかしいぞこいつって思ってたら、今度は嫉妬?
婚姻届にサインした後に離婚届出してきた人が嫉妬? あ、いや、俺王子としか知らなかったわけだけどさ。そんな人が、嫉妬? マジ? 嫉妬ってあの嫉妬だろ?
うん、まぁ、嫌われるよりはいいけどさ。
「でも、まぁ……」
……嬉しい、かな?
「どうしました、奥様」
「……いや、まぁ……」
「あらあら奥様~、顔、ちょっと赤くなってますよ?」
「いやいや、見間違いだって」
「本当ですか?」
黙ってろ、ピモ。
「ベレス暦15年3月7日生まれの第15王子です」
「知ってる」
「え、俺ヴェルの誕生日知らないんですけど」
「12月17日」
へぇ~真冬か。そこら辺だとここはどんな感じなんだろ。吹雪もっと酷くなる? え、怖いんだけど。
「好きな食べ物はパスタ。けどここに来て変わりました」
「じゃがいものポタージュ」
「よく分りましたね」
「見てれば分かる」
そんなに分かりやすいのか、俺。表情は出さないようにしているはずなんだけど……バレバレか。それに比べてヴィルは結構表情出さないから分かりにくいよな。伝授してもらうのもいいな。
あ、でも最近笑うようになったんだっけ。最初とは全然違う。イケメンなんだから笑ってた方が得だよ、得。
「嫌いなものは……辛いものと苦いもの? あ、昔小さい頃、5歳だったかな、ププメリだと思って普通に食べたらパパルスで大泣きしたことがあります」
「あぁ、似てるからな。そのままのを皮ごといったのか」
「……まぁ、つまみ食い? 死ぬかと思いました。使用人達には自業自得だって言われましたけど」
「確かに5歳の子供にあの味は無理だろうな」
「はい、だからもう見るのも嫌なんですよね」
「料理長に言っておく」
「お願いします」
ププメリもパパルスもマスカットみたいな果物だ。ププメリはすっごく甘酸っぱくてめっちゃ美味いんだよ。それに比べてパパルスはそのまま食べると、すんげぇ苦いカカオと一味唐辛子を混ぜたような味になる。
本来なら皮をちゃんと剝いて茹でてから冷やして食べるもんなんだけど、あれは本当にダメだって。死ぬかと思ったよ。水飲んでも甘いもん食っても全然治まらなくて大変だったんだから。
マジで自業自得。ごめんなさい。
「やんちゃだな。つまみ食い常習犯か?」
「笑わないでください」
「笑ってない。可愛いなと思っただけだ」
「それ、本当に思ってます?」
「思ってる」
本当か?
「離宮では、教育とかは他の兄弟達と同じものを受けさせてもらえなかったので使用人達に教えてもらいました。それでも暇だったんでいろいろやりましたよ。本もいっぱい読みましたし、庭とかいじったり、ナイフも離宮の衛兵に習ったし、絵も本を見てやってみたし」
後何やったかな。歌もやったし楽器もやったし……あとは色々やりすぎて覚えてないや。でもこっちに支給されるお金には限りがあったからお金のかからないものばかりだった。
「本当はダメなんですけど、離宮の敷地内の外に出た事もあります。俺本宮には全然行ったことないから他の人達に会った事なかったんですけど、王族の証であるこの容姿ですからすぐわかっちゃって戻されちゃって」
そう、銀髪に青い瞳は王族の証。でも19人の王子の中でこの容姿なのは俺含め5人のみ。そしてアメロは俺のみだ。だからすぐに分かってしまう。
「……たぶん、使用人達はお叱りを受けちゃっただろうけど、あいつら声をそろえて何もなかったって言ってきたんですよ。ほんと、バカだなぁ……」
俺のせいなのに笑っちゃってさ。正直に言えばいいのに。
「あ、すみません変な話しちゃって」
「別にいい。……大事な家族、なんだろ」
「……はい」
ヴィルが頭を撫でてくれた。まぁ、思えばヴィルも家族なんだけどさ。でもそう思うとなんか変な感じなんだよね。結婚式もやらなかったし、結婚指輪もない。
この世界だと結婚式はあっても結婚指輪というものは存在しない。だから違和感を感じるのか。そうか、それか。
「じゃあそろそろヴィルの事教えてくださいよ」
「……」
「何でもいいですよ。小さい頃はどんな子でした?」
少しの沈黙。難しいか? ヴィルの頭は上にあるから顔は見えづらい。だからどんな顔をしてるか分からん。
「4歳から剣を持っていた」
「……4歳?」
「あぁ、先代から渡されて騎士団の奴らの鍛錬中に放り込まれた」
「……なるほど」
いや、なるほどって言っちゃってよかったのか? そもそもそれ、いいのか? 先代様、ちょっと鬼畜じゃあありません? いや、そもそもその教育方針ってどうなんですか?
でも、ヴィルの強さはそこから来てるのか? 遺伝子とかそっちもありそうだけど。
そんな時、
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ。
「……」
「……」
「……笑わないでください」
「リュークの腹はもう限界か」
「我慢しろって言ったのはどこのどなたです?」
「ククッ、話はメシのあとだな」
だぁから、笑うな。お前のせいだかんな。
言わずもがな、呼び鈴を鳴らしたらニッコニコなピモが現れ、食事が部屋に運ばれた。
そして、全くカトラリーを持たせてもらえず、ヴィルにご飯を口の中に突っ込まれた。軽いからもっと食えと言ってきたからかどんどん突っ込んでくるのでもう一本のフォークでベーコンらしきものをヴィルの口に突っ込んだが。
「さっさと食ってください」
「そんなにやりたかったのか」
「いや、俺ばっかでヴィル食べてないじゃないですか。俺これ以上食ったら胃が破裂しそうです」
「じゃあ食わせてくれ」
「遠慮なく口に突っ込みますけど」
「別に構わん」
あ、いいんだ。てかこいつ口デカいしな。だから結構ぽいぽい入れちゃったんだけど、まぁ楽しそうにしていたから別にいいか。
「リューク、明日は」
「明日? んー、野菜温室ですかね」
「それは後にして、時間を空けておけ」
「……何かあるんですか?」
「さぁな」
……すんげぇ気になるんだが。でもヴィルってこういうのは絶対教えてくれなさそうだし、明日分かるからいっか。
「え? 嫉妬ですよ?」
食事後にヴィルが呼ばれ、そのタイミングでピモに、ヴィルに何かあったのかと聞いたら、そう返ってきた。
……嫉妬?
「だって奥様、ずっと離宮の使用人の者達と楽しく話をしていたではありませんか。特に、旦那様の知らない昔の話とか」
「……マジ?」
「そうですよ。本当は使用人達をすぐにでも首都に戻したいと思っているでしょうけど、今回のように奥様に何かあった時、私達より付き合いの長い使用人達の方がすぐ対応できるでしょうし、一番は奥様が大切になさっている方達と離れ離れにしてしまうと奥様が寂しい思いをしてしまうのではと思っているのではないでしょうか」
あ、まぁ確かに付き合いは長いから俺薬が効かない事知ってたわけだし、そうかもしれないけど……いやいや、そんなに帰したいのか? あ、でも昨日俺の事教えろって言ってたな。マジ?
「奥様を独り占めできないし、他の人と楽しくしているから不機嫌なのですよ」
「……独り占め?」
「そうです」
「でもさ、ピモとか他の人達とも楽しく話してるよ?」
「それは相手がよく知ってる者で、相手も自分の事をよく知っているからです。離宮の者達とは今回初めて会ったわけですから何も知りません。奥様とどんな関係なのか、とかね」
……いやいや、あいつ等とはただの家族みたいなもんだぞ? まぁ確かに知らないやつらではあるけど……それで不機嫌になったのか。
嫉妬……ヴィルって嫉妬|《しっと》するんだ……しかも、知らないやつらと喋ってるだけで? え、マジかよ。
「かっ……」
可愛っっっっっ……
そんなので嫉妬しちゃったの? え、可愛いんだけど。嫉妬した後が怖いけど。でも可愛いだろこれ。嫉妬……嫉妬するんだぁ……そういうのって全然しないと思ってたのにさ。
あ、いや、俺の中のヴィル像ってやつ? 最近壊れ始めてるからこれでだいぶおかしくなっちゃってるわけだけどさ。ほら、恋しくなっちゃったり。なんかおかしいぞこいつって思ってたら、今度は嫉妬?
婚姻届にサインした後に離婚届出してきた人が嫉妬? あ、いや、俺王子としか知らなかったわけだけどさ。そんな人が、嫉妬? マジ? 嫉妬ってあの嫉妬だろ?
うん、まぁ、嫌われるよりはいいけどさ。
「でも、まぁ……」
……嬉しい、かな?
「どうしました、奥様」
「……いや、まぁ……」
「あらあら奥様~、顔、ちょっと赤くなってますよ?」
「いやいや、見間違いだって」
「本当ですか?」
黙ってろ、ピモ。
応援ありがとうございます!
177
お気に入りに追加
7,057
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる