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◇15 汚い手使いやがって!!

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 本格的な夏が始まる前あたりに、とある人物が来訪してきた。


「お久しぶりです、辺境伯様、夫人」

「……」


 俺がここに来た時に一緒についてきた奴らだ。あんなにここを毛嫌いしていたのにどういう理由で来たんだ? すんごくニコニコ顔だし、俺の事を無視しなかった。

 けど、何かを大切そうに抱えてる。なんだ、その小さめの箱は。


「国王陛下からの代理で参りました。夫人の持参金を送るのが遅くなってしまい申し訳ない、と」


 持参金? まぁ結婚した際に持参金を持って嫁ぐのは当たり前のことだけど、用意なんてしてくれる奴らじゃないだろって思ってた。

 でも、今更?

 いったい何を持ってきたのやら。そう思いつつ、奴がフタを開けた箱の中身を見た。……おいおいちょっと待て、コレが!? 俺の持参金!?


「夫人は王族の大切な王子でした。ですからコレくらいはね。《古代遺跡の掘り出し物・王の盃》くらい必要でしょうと国王陛下はおっしゃいました」


 う、わぁ……マジでいらないものじゃんコレ。いったいいくら持ってきたんだと思ったら古代遺跡の掘り出し物ぉ!? ふざけんじゃねぇ!!


「国王陛下は、貴殿と縁が結べた事、嬉しく思う。長い付き合いとなるであろうから、これからもよろしく頼む。との事でした」

「……なるほど、な」


 マジ、かぁ。

 なんか、まずい事に、なった? そんな気がするんだが。



 奴らが帰って、客間を出ようと思ってたら、ヴィルが座ったまま考え込んでいるのを見た。やっぱりこれ、マズかった?


「ヴィル」

「……いや、何でもない」


 ……何でもない、ねぇ。

 何でもないわけないだろーが。これ、古代遺跡だぞ、古代遺跡! いったいどんな価値があると思ってるんだ!

 俺は、足を組んでいたヴィルの膝に堂々と乗り、両手でヴィルの両方のほっぺたを思い切り挟んだ。


「何でもなくないでしょ。俺今の状況がどうなってるのか分からないですけど、俺のせいでなんかまずい事になったのはわかってます」

「いや、」

「だから教えてください。俺のせいなのになーんにも知らないのは嫌です。俺にも出来る事、あるか分からないけど、ヴィルの助けになりたいって思ってるんです」


 もうここしか居場所がない俺を追い出さなかった。ここに置かせてくれて、楽しい日々を送らせてもらった。毎日が楽しいもん。

 だから、返したい。恩返し、したい。


「……仕方ないな」


 はぁ、とため息を吐きそう言ってくれた。やった、と思っていたのも束の間、後頭部を掴まれてキスをされた。まぁコレくらいは、と思ったけど中々離してくれない。意地悪か? 意地悪なのか!?


「っはぁ……」


 やば、唾、線が出来てる……なんか恥ずかしい。と思っていたら今度は優しいキスをされた。


「可愛い俺の妻の頼みだからな。お望み通りにしてやろう」

「……」

「ご機嫌斜めか? そんな顔しないでくれ」

「させたのは何処のどなたですか?」

「それは大変だ。なら早くお願いを聞いてやろう」


 そうだよ、俺はそれを聞きたかったんだよ。そらすな。


「まずは、結婚して持参金を持ってくることは知ってるだろう。だが、暗黙の了解で、王族を貰い受けたらそれ相応の物を献上しなければならない、というのは知ってるか?」

「えっ」


 なにそれ、俺知らないんだけど。暗黙の了解? じゃあこの《王の盃》レベルのものを献上しなきゃいけないってこと?

 え、それじゃあ何があるってのさ!?


「これは金額で表すことができない代物だ。という事は金を献上する事はできない。となると、物になる。ウチで一番王族が欲しいものはなんだか分かるか?」

「青バラ!!」

「そうだ」


 え、マジ!? アイツらここの青バラ狙ってるのかよ!? やっぱりアイツら頭おかしいんじゃないのか!?

 だってあれは、ここの何代か前の当主が奥さんの為に研究を重ねて作ったバラなんだろ? そんなの渡せるわけないじゃん!!


「だが、それに値するものがもう一つある」

「えっ?」


 もう一つ? なんかあったっけ? といっても俺ここの事あんまよく知らないしな。

 ヴィルは膝の上に乗ってた俺を持ち上げ、抱き上げた。いや、そんな事しなくていいから。


「執事、いるか」

「はい、こちらに」

「《白の間の鍵》を持ってこい」

「かしこまりました」


 と、何処かへ行ってしまった。


「あの、さっきの《王の盃》を客間に放置していいんですか」

「あんなガラクタに何の価値があるんだ。どうせ腹いせだろう」

「えっ?」

「何代か前の当主が王族に向かってこう言ったんだ。クソなお前らの支援なんていらない、とな」


 うわぁ、なんて事を。でもなんかヴィルも言いそう。血は争えないな。

 そうしてたどり着いたのは、白い扉。バラの間とは違って雪の結晶が彫刻されている。

 鍵を持ってきた執事が、カギを開け、扉を開いた。


「う、わぁ……」


 なんか、煌びやかだ。俺の部屋より少し小さいけど、それでも十分広い。そして部屋の中には、これは宝石か! まるで博物館のように、台の上に透明な箱に入れられている。

 どれも大きいし、輝いている。けど、宝石といっても加工されてないそのままの状態だ。


「……これ、もしかして、奥方のために集めたやつ……?」

「あぁそうだ」


 やっぱりそうかぁぁぁぁぁ!!

 なんか、この家の人達の執着心ってやつ? ヤバすぎだって!! てかどうやって集めたのさこんなもの!!

 そして、ふと視界に入った。奥にあった、大きな箱。


「さっき言ったのはそれだ」


 近づき、中をのぞいた、ら……呆然としてしまった。というか、魅入られてしまった。

 何だ、コレ。透明で、その中に銀色の線がいくつも引いてある。割れてるわけじゃない。すごい、とにかく、すごい。


「スノーホワイト」

「……へぇ」

「雪山の奥に鉱山があるんだが、白ヒョウなどのおかげでコレしか掘り出せなくてな。だからここにしかない」

「……これ、王室は知ってるんですか?」

「いや、知らない」

「なる、ほど……」

「だが、コレには手をつけたくないのが俺の考えだ」

「……はい。先代が奥方のために作った部屋ですから」


 きっと、青バラにも手をつけたくないってヴィルも考えてると思う。あんな汚い手を使ってくるやつなんかに渡してたまるか!

 とは言っても、じゃあ何を献上するかってことになってくる。

 ん~、どうしたものか。

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