バトル・オブ・シティ

如月久

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メガロポリスの掟

6.戦争犯罪人

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<「ネバーランド」代表を拘束>
 戦争終結から5分ほどすると、新聞がヨッシーの時と、全く同じ文面の記事を表示した。
<「ネバーランド」代表、第一級戦犯で起訴>
 「プレミアム・シティ・プレス」が告げる軍事裁判の展開は、ヨッシーの場合と一言一句違わない。戦犯に対しては、同じような対応を取るようにプログラムされているのだろう。
 だが、その後の裁判は、ヨッシーの場合と異なった。
<「ネバーランド」代表、起訴事実認める>
 ヨッシーは「全面否認」となっていた。この差は一体どこから来るのか。戦争に敗れ、作り上げた街が占領、併合された後でも、プレーヤーの意思がどこかで反映されているのだろうか。この軍事裁判もゲームのプログラムの一部であるはずだ。最初が同じなら、その後も同じでなければおかしい。話の展開が変わったとすれば、プログラムを動かす何らかの指令があるべきなのだ。リョウはますます訳が分からなくなった。

 そのとき、携帯電話が鳴った。ジャニスからだった。
「ヨッシー、戻ってきた?」
 ジャニスは開口一番、早口で聞いた。
「いや、まだだ」
 時間は午前10時を過ぎた。もう、「ヨシダ・シティ」の敗戦から、2時間以上が経過している。朝飯を食べに行ったにしては、帰りが遅すぎる。
「この前、話したでしょう。バイト先の友達の彼氏。今、彼女に電話したんだけど、彼もいないんだって」
 ジャニスの言葉に、リョウは体中の血が凍りついたかと思った。
「昨日の夜、彼女が別れ話をしに彼の部屋に行ったら、彼は目の色を変えて『もうすぐで決着がつくから、そうしたらこのゲームはやめる』って真顔で言ったんだって。だから『別れないでくれ』って。でも、彼女はもうそんな気ないから、今朝、学校行く前に、『やっぱりダメだ』って言うために、もう一度彼の部屋に寄ったんだって。そうしたら、部屋が空っぽだったって。ここ半月くらいは、引きこもりみたいにずっと部屋にいたのに、おかしいわよね」
「パソコンは?」
「え?、パソコン」
「そうだよ、その彼がゲームをしていたパソコンだよ。きっと、起動された状態のままで置いてあったんじゃないのか」
 ジャニスは驚いた口調で言った。
「そうよ、どうして分かったの? 薄暗い部屋の中で、パソコンだけが動いてて、気味悪かったって。『やっぱり絶対に別れる』って彼女言ってたわ」
「ところで、ジャニスはその彼氏のこと、何か聞いたことないか。趣味とか好きなものとか」
 ジャニスは少し考えた。
「あんまり聞いたことはないけど…。音楽が好きで、特に7、80年代のが好みだったみたい。自分でギターを弾いたりもするみたいよ」
「誰か好きなアーチストはいるのかな」
「確かマイケル・ジャクソンが好きだって言ってたような気がする。そうそう、ムーン・ウオークができるんだって。デートのときに見せてもらったって、彼女が言ってたよ。でも、今時、ムーン・ウオークって言ったってね」
 リョウは絶句した。返事がなかったので、ジャニスも電話口で、リョウの驚愕を感じ取ったようだ。
「どうしたの、何かあったの?」
「間違いないと思う。いなくなった彼氏も、『メガロポリス』を作ったんだ。そして、ヨッシーと同じように『プレミアム・シティ』との都市間戦争に負けた。つい、さっきね」
「戦争? 何それ」

 リョウは、「シティ」のルールが変わったことや、ヨッシーの街が「プレミアム・シティ」と戦争して敗れたこと、ついさっき「ネバーランド」が「メガロポリス」に昇格して、同じように併合されてしまったのを知ったことを手短に説明した。
「ネバーランドは、マイケル・ジャクソンが自宅に作った夢の国の名前だよ。ピーターパンを元にした」
「そういえば、何年か前、幼児虐待で問題になって、その後、借金の形で取られてしまったってワイドショーでやってたわね」
「そうさ。彼は相当ゲームにハマっていたんだろう。僕より早くから始めていたから、かなり大きな街に成長していたはずだよ。そして、昨夜、もう少しで『メガロポリス』に昇格できそうだというところで、彼女に来られた。そこで、『もう少し待ってくれ』って言ったんだよ。その時はまだ『メガロポリス』がゴールだと思ってたんだろうな。でも、ゲームはそのあと思わぬ展開を見せた」
「でも…」
 リョウには次にジャニスが言おうとしていることが分かった。
「なぜ、いなくなってしまったの」
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