バトル・オブ・シティ

如月久

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シティ

1.ヨッシー快進撃

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 銭湯から部屋に戻ったリョウが、信じられないという表情でパソコン画面に釘付けとなっていると、携帯電話が鳴った。ヨッシーからだった。
「どこ行ってたんだよ。何回も電話したんだぜ」
「肩の凝りがひどいんで、銭湯に行ってほぐしてきたよ」
「あのスーパー銭湯か。いいなあ、俺も今度行ってこようかな。でも、今は行けない。手が離せないんだ。聞いてくれよ。シティに昇格したぞ」
 ヨッシーの声は弾んでいた。
 リョウはすぐに「シティ」のホームページに飛び、ヨッシーの街を閲覧した。参加者全ての街は原則的に公開されている。ヨッシーの町は、高速道路のインター周辺に、続々と工場が立地して、人口も税収も着実に増加していた。だが、他のプレーヤーが同じように企業誘致に熱を入れ始めたせいか、工業団地の埋まり方が徐々に悪くなっていったんだという。
「やっぱりこのゲームは、他のプレーヤーと何らかの相関関係がある。そういう設定になってるんだよ。だから、人と同じやり方をしていたら、平均的な街にしかならない。何か新しいこと、新しい発想を試した街だけが、ずば抜けた発展を可能にするんだ。実際の社会と同じだな。本当にリアルな作りだよ」
 企業誘致のペースが落ち始めたのを敏感に察知したヨッシーは、人口10万人を目前に控え、町の郊外に空港を建設し、その近くにテーマパークを誘致した。
「企業誘致にだけ頼っていたら、町の拡大はいずれ行き詰る。副収入として、交流人口を増やしてみたらどうかと考えたんだ。観光だよ。これは他のプレーヤーがまだ挑戦していない分野だ」
 ヨッシーの口ぶりは、コンサルタント会社のプレゼンか社会学者のレクチャーのようだった。
「高速道と空港で、人やモノを運ぶ導線は確保した。あとは、どう具体的に人を動かすかだよ」
「それで、いつシティに昇格したの?」
「1時間ほど前だよ。シティになると、消防署が消防本部になって、保健所とか社会保険事務所とか、職業安定所とか、裁判所の支部とか、いろんな役所の出先機関ができたよ。10万人を数人超えてシティになった途端に、人口が2千人も増えたんだ。ま、もっとも、そのあとはちょっと苦戦してるけどな」
 リョウはヨッシーの話を聞きながら、マチの様子を細かく観察した。
「テーマパークは順調なの?」
「開業したばかりなんだ。あと4、50分もすれば、最初の年の成果が分かる。入場者はかなりのものだぞ。3カ月で50万人はいってる」
「それは凄いな」
「これはリョウだから教えるけど、来年にはテーマパークの近くで、もっと凄いことをやる計画なんだ。認可されるかどうかは分からないけど」
「何だよ」
「カジノさ」
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