意地っ張りなオメガの君へ

萩の椿

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第21話

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「はい、やっと俺の番」


 近衛が西園寺から離れた後、一条は待ちくたびれたように呟いた。

「旭、お風呂入ろうか。汗まみれで体気持ち悪いでしょ」

 疲れ果てて意識が朦朧とし始めている西園寺の体を持ち上げ、一条は部屋を出た。タイル張りの、二人は余裕で入れる広めの浴槽に湯が沸いている。一条は自分の膝の上に西園寺を座らせるようにして入浴し、後ろから挿入した。

「あっ……、なにっ……」

 再び生まれた圧迫感に西園寺の意識が覚醒した。自分の置かれた状況に、驚く暇もなく下から穿たれる。

「いやっあっ……」

 一条が西園寺の中を穿つ度、お湯が波打つ。西園寺は咄嗟に逃げようと体をよじるも、水中では体が重く上手く動かせない。水の中で出し入れされる何とも言えない感覚に西園寺が身悶えていた時、一条の手が、西園寺の乳首へと移動した。尖りを指で弾き、こね回され、舐るように愛撫される。それだけで、近衛との営みで先ほど果てたばかりの西園寺のモノは硬さを増していく。その様子を後ろから見ていた一条は、口の端に笑みを浮かべた。

「まだ、元気みたいだね」

 西園寺は必死に頭を左右に振って否定した。ヒートな故に、こうして体が快感に忠実に反応するだけで、西園寺の体力はもう底をついている。もともと、オメガは体力のある方ではないし、近衛と宝来の相手をしたのならば、なおさらだ。

 胸をいじっていた一条の手が、西園寺の滑らかな体を伝い降りていく。

「ああっ」

 昂ぶりを握られ、西園寺は嬌声を上げた。二点を同時に責められ、耐えがたい快楽に支配される。西園寺の中にある一条の欲望がより大きさを増し、奥を突くと、一条の体に電流が走った。

(やばい……なにこれっ……)

 体が異常なほどに熱く、痺れている。今まで体験したことのない感覚に、西園寺の本能が警報を鳴らしていた。極限まで追い詰められた西園寺は、一条の名前を叫ぶ。

「まってっ……、れいっ、れいっ!」

 一条の腕を掴み、西園寺が必死に訴えると動きが止まった。

「どうした?」

 西園寺は慌てて一条の欲望を自分の中から抜き、一条と向かい合った。

「もう……、できない……」

「なんで」

「体が変なんだ……。少し休ませてくれ」

「この状況で? 絶対いや」

 宝来と近衛が終わるまで、律儀に待っていた一条の欲望は、すでに限界寸前まで膨れ上がり、西園寺の中で力強く脈打っている。

「でも、もう……」

 限界なのは西園寺も同じこと。懇願の眼差しを向け続けると、一条はため息をついた。

「じゃあ、旭が動いてよ」

 渋る西園寺に、一条が代わりに提案した案は、突拍子もないものだった。数舜立って言葉の意味を理解した西園寺は、左右に激しく首を振る。

「む、無理っ」

「俺に突かれるよりも、自分で動いた方が加減できると思うし」

 それは、流石に西園寺にはハードルが高すぎるし、何と言っても恥ずかしい。

「まあ、嫌ならいいけど。このまま続けるよ?」

 一条はやめる気はさらさらないと言った様子だ。体を抱かれるようにして拘束されており、西園寺に逃げ場はない。

「お預けなんか絶対無理だから」

 戸惑っている西園寺に対して、一条はせかすように告げる。そんな事を言われると、自分で動く方がまだ楽なように聞こえてしまう。さっきみたいに、一条に一方的に穿たれるのは、もう体力が持たない。それならば、一条の言うように、自分で加減ができる方が辛くないのだろうかと、西園寺の脳内が混乱し始める。

(どうすればいいんだ……)

 こうしている内にも、体内で一条のモノは大きくなっていく。それに焦りを感じた西園寺は迷った末、ゆっくりと顔を上げた。

「……怜は、一ミリも動くなよ」

「はいはい」

 釘を刺すと、一条は腰に手を添えてくる。恐る恐る膝に力を込めて、一条の欲望の上に腰を下ろすと、再び圧迫感が生まれ、内壁を擦り上げられていく。

「んうっ」

 脳内にピリッと電気のような刺激が走る。唇を震わせて、西園寺は再び腰を上げた。自分でリズムを調節できる分、穿たれるよりかはましかもしれないが、脳が煮えくり返りそうな程恥ずかしい。それに、ゆっくりと出し入れしている分、一条の欲望や形がより繊細に伝わってきてしまう。

(やっぱりだめだ……)

 数回出し入れを繰り返した後、西園寺は動きを止めた。

「旭、どうしたの。そんなんじゃ終わんないよ?」

 物足りない一条は、西園寺の腰を掴み己の欲望に深く突き刺さるよう下に誘導していく。

 深く、一条の欲望が突き刺さった西園寺は震えながら顔を上げた。

「だって、怜のがおっきくて……怖いんだ」

 ただでさえ、西園寺は自分の中に入れるのは今日が初めてなのだ。こんな凶暴なものを入れて平然といられるわけがない。ここまで言えば、一条だって無理強いはしないはず。そう踏んでいた西園寺は、一条の肩を掴み訴えた。

 しかし、西園寺の言葉は逆に一条の理性を吹き飛ばしてしまう甘い誘い文句だった。

「んんっ」

 一条は、西園寺の歯列を割り口腔を舐めまわす。一方的に求める獣の様に激しいキスは、一条が西園寺に対して抱いている感情そのものを現していた。抑制していた気持ちが今、まさに暴れ始める。

 何事も長く続かない。昔の一条の性格を一言で表すなら「飽き性」という言葉がぴったりだっただろう。ある程度器用にこなすことができるので、物事をやり遂げた達成感や充実感を人並みに味わう事がなかった。大して面白くもない日常で、唯一幼馴染の三人といる時だけが楽しみを感じることができたけれど、そんな気を許せる三人にも、時々、壁を感じることがあった。近衛は柔道、宝来は洋服のデザイン、西園寺は建築士と、何もやりがいを持っていない一条に対して、三人は夢中になれるものを持っていたのだ。


 特に、西園寺は学校にまで建築の本を持ってきては、そこに載ってある建物の写真を毎日食い入るように見ていた。その時の西園寺の輝いた目を一条は今でも鮮明に憶えている。それ程、打ち込めるものがある西園寺を羨ましいと思った。けれど、所詮自分には何も興味を持てるものがない。フェンシングの誘いが来たのは、そう思い込んでいた時だった。


 どうせまたすぐに飽きてしまうだろうと決めつけていた一条をフェンシングへの練習場へと引っ張っていったのは西園寺だった。


「お前が気になるって顔してるから」


 本当にそんな顔をしていたのかは、分からない。でも、思い返せばその一言がきっかけで一条はフェンシングをやり始めた。初めは西園寺が試合を見に来ると言うから、かっこ悪い姿を見せないようにと練習に励んでいたけれど、結果的にそれが、フェンシングという競技自体にはまっていくきっかけとなり、それから、一条の人生は変わっていった。色々と物事を深く見るようになったし、辛抱強く粘れるようにもなった。

 人生を変えるきっかけを作ってくれたのは、紛れもなく西園寺で、一条は少しずつ西園寺に好意を抱くようになっていた。


 しかし、中学三年生の時、第二性診断が終わってからは、一条が好きな西園寺は途端に消えていった。氷の様に冷たく、トレードマークだった笑顔も消え去った。オメガとして生きていくという事がどれほど大変な事なのか、薬品開発者の父親からはよく聞かされていた。助けてあげたいのに、一条には何もできることはなかった。出来ることと言ったら、ほっといてくれという西園寺の言葉に従うことくらいで、日々無力な自分に苛立ちが募っていった。


「西園寺君を助ける方法ならある」


 一条が高校一年生になったある日の事、そう父親が口にした。


「お前が薬品開発者になって、オメガの抑制剤を新たに開発しろ。副作用もなく、それでいて効果も今までよりも強いものをだ」


 父親は、単純に会社を継いでほしくて言ったのだろうが、一条はその言葉でフェンシングを捨てる覚悟ができた。跡継ぎだからとかそんな理由ではなくて、一条は自ら父親の会社を継ぐことを選んだのだ。それも、すべては西園寺の為。一条の人生の中にはいつも中心に西園寺がいた。もう一度、笑う顔を見せてほしい。大好きだったあの頃の西園寺に戻って欲しい。そのためだったら、一条は何だってできる気がした。


「ふぅんっ」


 一条は逃げ惑う西園寺の舌を捕まえてきつく吸い上げた。口を離せば、とろけた西園寺の顔が視界に映る。


「本当、どうしてそんなにかわいいの」


 どんな女性に対しても、一条は西園寺のように執着心を抱いたことがない。視界に入ってくるのも、一条の気持ちを乱すのもいつも西園寺だった。


「止められなくなるだろ」


 一条は西園寺の腰を掴み、追い打ちをかけるように律動を速める。


「あっあ……、いや……」


「本当? 旭のココガチガチだけど」


 西園寺のモノを一条は上下に擦り上げる。両方から刺激を与えられ、西園寺は追い詰められていく。

「イッちゃう……、でちゃう……」

 風呂場の中に西園寺の甘い声が響いた。

「いいよ、イって。旭」

 一条が西園寺の昂ぶりを強く擦り上げ、西園寺は爆ぜた。吐き出された白濁が、水中に散り、間もなくして一条も西園寺の中へと己の欲望を吐き出した。

「上がろうか」

 一条は力の抜けた西園寺の体を抱き上げて、浴槽を出た。用意されていたバスローブを着せられた西園寺は再びリビングへと戻されソファーに寝かされる。


「エロいね」


 濡れた体に、白いバスローブを身にまとう西園寺の姿を目にした三人は、その姿に見入ってしまう。

「もう無理だからな……、本当に」

 西園寺は重い瞼を開けて三人に訴えた。しかし、欲情したアルファの前では、そんな言葉は何の意味も持たない。西園寺は一晩中三人から体を貪られ続け、最後は気絶するように意識を手放した。
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