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第13話
しおりを挟む西園寺はそれから暫く、登下校には車を活用した。あの人物が何の目的で西園寺の後をつけてきていたのかは分からないが、要人に越したことはない。その甲斐あってか、あれ以降、身の危険を感じることは無くなった。
そして遂に今日、生徒会選挙当日を迎えた。五、六時間目を使って、立候補者と、推薦者が演説し、その場で投票が行われる。今年は、去年よりも倍の人数の立候補者が集まり、確率は二十分の一となった。
会場に設置された席が全校生徒で埋まり、一番手の候補者が演説を始めた。演説をする順番は事前にくじ引きで決まっており、西園寺は一番最後なので待機時間が長い。その間、候補者に設けられた別室で過ごすこともできるのだが、西園寺は他の候補者の演説を聞きに会場まで足を運んでいた。
(こいつ、本当に俺より年下か? やけに貫禄があるな……)
一番手の候補者は、宝来と学年が同じ二年生だ。髪型からして野球部だろうか、スポーツ少年らしい体格で頼もしく見えるし、人前での演説も物おじした様子はない。
(強敵だな……)
野球部から出てきたのであれば、部員の票は大体があの少年に流れるだろう。西園寺は部活生の票を集めるために、公約に部費の増額を入れているが、これではどうなるか分からない。今年の生徒会長選挙はレベルが高そうだ。
それから、一人、また一人と演説が終わり候補者の半分が終わったところで、小休憩が挟まれた。自分の順番が近づいてくるにあたって、体が緊張してくる。西園寺は、人前に出るのは慣れている方だが、今日は失敗できないと思うせいかそわそわしてしまう。
廊下を歩いていると、演説を済ませた候補者が何人か立っていた。皆達成感に満ち溢れた顔をしている。
(いいな、俺も早く終わりたい)
きりきりと痛む胃のあたりをさすりながら、トイレへと向かっていたところ、西園寺はふと気が付いた。柴谷の姿を見かけないのだ。恐らく西園寺の一番のライバルだろう。基本的に候補者は、待機室に集まっているのだが、柴谷はいなかった。西園寺と同じように会場にいたのだろうか。
(まあ、関係ないか)
今の西園寺には他人の事を気にしている余裕がない。あれ程練習したのだから、大丈夫だとは分かっているけれど、どうしても失敗してしまった時のことが思い浮かんでしまう。西園寺は必死に演説の内容を頭の中で復唱する。しかし、周りの声が耳に入ってきて上手く練習できない。
(もっと静かな所で練習したいな)
出番までまだ時間はある。今は全校生徒が体育館に集まっているから第二体育館がある東棟の方は人がいないだろう。ついでに、そこでトイレも済ませて、時間になれば帰ってきたらいい。そう思い、東棟へ続く渡り廊下に足を踏み出した時だった。
西園寺の視界が突然、真っ暗になった。
(なんだっ?)
戸惑っている間に、いきなり口を押えられ、手際よく後ろに腕を拘束されてしまった。
「んんー!」
突然の事に西園寺はパニックに陥った。状況を確認したくても、視界が奪われたせいで何も見えないし、口が自由に動かないので、助けも呼べない。拘束された西園寺は、引きずられるようにして、誰かに運ばれている。段々と人の声が遠ざかり、十分ほどどこかに移動した後、西園寺を抱えていた人物の歩みが止まった。
(痛いっ!)
乱暴に地面へと投げられ、腰にダメージが響く。ダイレクトに食らった痛みに西園寺がもがいていると、突如視界が明るくなった。数回ほど瞬きをして目が慣れてくると、かすんでいた目の前の景色が段々と見えてくる。
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