意地っ張りなオメガの君へ

萩の椿

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第6話

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そして、最悪だったのは、その翌日の事。

深夜二時。西園寺は下半身に感じる違和感に目を覚ました。恐る恐る、ルームウェアを脱ぎ、下着を下ろすと、西園寺の欲望から透明な液が溢れていた。加えて、ジンジンと腹の底が痺れている。これは、間違いなくヒートの症状だ。


「なんで……、今……」

 西園寺のヒートは、まだ先のはず。昨日の一条に嗅がされた薬が原因なのかもしれないと考えたが、あの後はなんとか薬で収めることができたし、普通に生活できていた。だとすれば、ヒートの周期がずれてしまったのだろうか。

「なんだよっ、これ」

 今回は、いつもより後ろから感じる疼きが強い。後ろに手を持っていくと、内側から蜜が溢れ出していた。まるで、男を受け入れる準備はできていると言っているかのように、どくり、どくりと波打っている。

「くそっ」

 西園寺はベッドから起き上がり棚の引き出しを開け、抑制剤を取り出した。水をついでいる暇もなく、そのまま錠剤をごくりと飲み干す。十分ほどしたら効いてくるだろうが、それでも収まるまで待っていられない。西園寺は自身に手を伸ばした。早くこの熱を吐き出したい。その一心で上下に強くこすり上げる。

 しかし、上手く射精ができない。快感は上り詰めてくるのに、あと一歩のところで引いていくのだ。お預けを食らっている西園寺は腰を揺らしながら取り乱す。

「なんでっ、いつもならイけるのに!」

まるで、体がそこからの刺激を拒否しているみたいだった。代わりに、呼吸に合わせて開閉を繰り返す後ろから、蜜がどっぷりと垂れている。

「あ、あ……、だめだっ」

 頭で拒否しているつもりなのに、腕が勝手に後ろに回った。つぷりっ、と音を立てて、西園寺の中指が後ろに入り込む。

「はあ……、はあ……」

 西園寺の後ろは、指をどんどん奥へと誘いこんでいく。もっと、もっと、と刺激を欲しがるように中をうねらせて、逃がさないように指に食いついた。

 もう、西園寺の思考はまともに働いていなかった。考えられるのは、どうすればもっと気持ちよくなれるのか。ただそれだけ。

 西園寺は口の端からよだれを垂らし、夢中になって中をいじる。昨日、一条に触られた場所は覚えている。西園寺はソコに向けて指を進めるが、どうやっても西園寺の指ではそこに届かない。どんなに体をよじったところで、結果は同じだった。

「あ……、どうして……」

 西園寺の後ろが切なく疼いた。

(ずっと、この疼きが収まらないままなのか……)

 西園寺ははっとして、時計を見やった。薬を飲んでからはとうに二十分を過ぎていた。いつもなら、十分程度で収まるはずなのに。

 薬が効いていない。その事実が今の西園寺にはどれだけの絶望を与えるのかは言うまでもない。

 ヒートを抑える方法は、あと一つ。アルファかベータと交じり合う事だ。

 昨日の、一条と近衛の巧みな指使い。そして、腰に当たっていた宝来の固い欲望を思い出し、西園寺はごくりと唾を飲み込んだ。

まるで、せき止められていたダムが決壊したみたいに、思考を、欲を止められない。次第に西園寺は錯乱状態に陥り、淫らな妄想に身を沈めていった。










 西園寺家の使用人は、ベータがほとんどであるが、中には番持ちのオメガが数人いる。ベータでは、番を持たない西園寺が発情したときに、襲いかかってしまう危険性があるため、オメガの使用人が西園寺の身の回りの世話をしているのだ。

 いつもなら時間きっちりに起きてくる西園寺が、今日は部屋から出てこない。不思議に思った使用人が西園寺の部屋を開けると、そこには変わり果てた西園寺の姿があった。

「大変だっ、早く医者を!」

 すぐに、かかりつけ医の斎藤が呼ばれ、西園寺は点滴を投与されることになった。

「……おねがいっ、もう、入れて……、俺の中、突いてよ……、楽になりたいっ」

 西園寺は、斎藤の腕を掴んで懇願の眼差しを向ける。深夜二時に発情して、四時間経っていた。結局その間、一度も射精できず、言わば生殺し状態だったわけだ。自制心など、とっくのとうに切れていた。

「大丈夫だよ。これから少し強い薬を入れるからね」

 斎藤は、西園寺と同じオメガで番持ちである。従って、西園寺が出す誘惑の香りも効かない。斎藤は使用人と共に西園寺の体を押さえつけて点滴を投与した。

 それから、西園寺が目覚めたのは一時間後。目を開けると、すぐに深刻な顔をした斎藤が視界に入ってきた。
「具合はどうだい?」
「はい……。大丈夫です」
「そう。少し話をしたいんだけど、いいかな?」
 斎藤の声のトーンから、なんとなく明るい話ではないことは分かる。西園寺は姿勢を正して頷いた。

「まず、薬の服用について。君は指定された以上の薬を飲んでいるね?」

 半月メガネの下から見透かすような視線を向けてくる斎藤から、西園寺は視線を逸らした。

(なんで知ってるんだ……?)

 不思議に思っていると、斎藤は西園寺の前にいつも服用している抑制剤の瓶を置いた。

「君が服用している抑制剤が床に落ちていた。先週渡したはずのこの薬が、もうなくなりそうだ。普通に服用していたら、まだ半分以上は残っているはずだけどね」

 言い逃れができない状況に、西園寺は口を噤む。

「薬を指定よりも多く飲みすぎてしまうと、体が薬に慣れてしまうんだ。今回、薬が効かなかったのはそれが理由だよ」

「そうですか……」

 西園寺自身、薬を多く服用することは良くないとは思っていたが、それでも、意図せずオメガの匂いが香っている時もある。それに、毎回時間通りに薬が飲めるとも限らないから、一日分を一気に飲んでいる時もある。ダメだとは分かっているけれど、もしもの事を考えてしまうとやめられないのだ。

「すみませ……」

「僕に謝ったって仕方がないでしょ」

 西園寺の謝罪を斎藤が途中で遮った。もっともな言葉に返す言葉もない。
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