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第4話
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皆、真剣なまなざしを西園寺に向けている。
「いつから……」
沈黙に耐えられなくなった西園寺は、とりあえずそんなことを口にしてみた。三人は顔を見合わせ、
「俺は、中学から」
と一条が、
「お前がオメガだって分かった時から」
と、近衛が
「僕は……、分かんないな。物心ついた時からずっと旭の事が好きだよ」
と宝来が順々に答えていった。
(嘘じゃないのか……?)
咄嗟に尋ねてみたことだが、三人とも言い淀まずはっきりと答えてきた。そこまで、用意周到に西園寺を騙す準備をしていたというならば、それまでだが、どうもそんな風には見えない。三人からひしひしと緊張感が伝わってくるのだ。
西園寺は、告白というものをしたことはないが、人に自分の気持ちを伝えるのはとても勇気がいることというのは理解していた。あまり、仲が良いわけでもないが、気持ちがないのならば変に期待を持たせず、きっぱり断るのが礼儀だろう。
「……俺はその気持ちに応えることはできない。お前らには悪いが、アルファは嫌いだ。将来は誰とも番わずに一人で生きていく」
西園寺は一息で伝えた。
将来は、一人で生きていく。もう決めている事だった。番を作って子どもが生まれる、それがオメガの幸せだと世間は言うけれど、西園寺はそう思わなかった。アルファやベータは、大抵オメガの事を蔑んで生きている。そんな人達と番うくらいなら、一人の方がどう考えたって気楽だ。
(長男として跡継ぎを残さなければいけないとは分かっているけれど、アルファやベータと番うくらいなら死んだほうがましだ)
中学ではオメガだとからかわれ、いじめられた。西園寺は今でもその事を昨日の事の様に鮮明に憶えている。
西園寺の言葉に、空気は一瞬で静まり返った。誰も何も言わないので、ひとまずここからは立ち去った方がいいだろうと、西園寺は重い腰を上げた。と、その時。
「ベータよりも、アルファの方が、オメガとのセックスの相性はいい」
沈黙を貫いていた近衛の言葉に、西園寺の歩みが止まる。普通、躊躇するであろう発言を、近衛はさらりと言ってのけた。
「セッ……、こんなところで……、やめろ」
逆に西園寺の方が、恥ずかしく感じてしまう。高校三年生とはいえど、異性、ましてやアルファともベータとも関わり合ってこなかった西園寺は、性についての話題には慣れていない。それに、親しい友人とならまだしも、この三人とこういうセンシティブな話はしたくない。
「まて、まだ話は終わってない」
「触るなっ」
伸びてきた近衛の手を西園寺は弾き返した。パシンッと、痛々しい音が響きわたる。
その瞬間、三人の顔つきが一瞬で変わった。
「じゃ、まあ。予定通りにってことで」
一条の言葉の意味が分からず、首を傾げていると、いきなり西園寺の体は押さえつけられた。
「おいっ、何のマネだ!」
近衛に腕を拘束され、それに一条も加わり、二人掛かりでソファーに押さえられ、西園寺は身動きが取れない。
「旭は昔から頑固なところがあるよね」
一条は怪しく口の端に笑みを浮かべた。
「はあっ?」
「口で言ったってどうせ分かってもらえないだろうし、実際に体感してみるのもありなんじゃない?」
西園寺のスーツのボタンに一条が手を伸ばす。
「安心して。俊がまだ番える年齢じゃないから、抜け駆けはなしってことで、まだうなじは噛まないよ」
一条が宝来に視線をやり、西園寺もつられて横を見る。対面するように置かれたソファーの間にあるガラス張りのデスクに座り、宝来は退屈そうに西園寺の顔を見降ろしていた。
「やっぱりずるいよ、二人が最初なんて」
「お前は……、ちょっとは年上に気を遣えないのか?」
ぶつぶつと不服そうに呟く宝来に、近衛が苦笑いしながら言った。
「年上って一個しか違わないじゃん……。終わったら、早く変わってよ。僕も早く旭に触りたいから」
近衛と宝来の会話が西園寺の頭上で交わされている間、一条は西園寺のワイシャツのボタンを次々外していく。
「おいっ……、やめろよっ」
開けていく胸元に焦りを感じ、西園寺は一条の腕を掴んだ。
「もー、邪魔だよ旭。利一、旭の手押さえといて」
「ふざけるなっ、こんな事が許されると……」
近衛に両手を押さえられ、身動きがまったく取れなくなったとき、突然、西園寺の鼻に小瓶のようなものが一条からあてがわれた。とっさに顔を逸らすも、後ろから近衛に顎を掴まれて正面を向かされる。一条に口を手で覆われ、いよいよ鼻で呼吸するしかなくなってしまった西園寺は、息を止めた。中には紫色に染まった脱脂綿が入っており、どう見ても安全なものではなさそうだ。
「大丈夫だよ、俺が作った安全な媚薬だから」
(媚薬っ?!)
一条の発言に、西園寺はますます体に力を込めて抵抗した。
(何する気だ、こいつらっ!)
しかし、武術をたしなみ体つきからして違う近衛に敵うはずもなく、西園寺はとうとう限界を迎えてしまい、鼻から空気を吸い込んでしまった。
小瓶からは甘く魅惑的な香りが放たれており、西園寺の思考を鈍らせていく。
「そう、ゆっくり吸って」
一条に何度かその香りを吸い込まされた西園寺は体に上手く力が入らなくなっていた。
(なんだこれ……)
ぼんやりとした意識の中で、体の異常を感じた西園寺は戸惑った。鼓動が激しく脈打ち、体がじんと痺れ、腹の底が甘く疼いている。まるで、月に一度襲って来るヒートと似たような症状だ。
(なんで……、抑制剤あんなに飲んだのに……)
西園寺はここに来る前、抑制剤をいつもより多く服用していた。それも、下手をすれば、オーバードーズを起こしかねない量をだ。
「怜、それ本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だって。親父の研究室にあった薬品を調合しただけだから、危ないものは使ってない」
宝来の問いに一条が自慢げに応えた。
(あの、媚薬のせいなのか……)
一条は薬品開発者の父親についてよく研究室を出入りしていた。高校三年生とはいえど、薬品に関しては博識なのかもしれない。
その媚薬を嗅がされたせいか、西園寺の嗅覚は異様に敏感になっていた。一条、近衛、宝来から発されているやたら甘い匂いが鼻につく。艶かしく、ずっと嗅いでいるとおかしくなりそうだった。
「……ちょ、ちょっと待て……」
西園寺は、一条から距離を取るように体を後ろに引いた。しかし、後ろには近衛が構えており、西園寺に逃げ場はない。しっかりと西園寺の腕を拘束した近衛は、露わになった西園寺の胸にするりと手を這わす。
「あっ!……」
西園寺自身も驚くほど体が跳ねた。口から零れ落ちた声も、今までに出したことがないくらい甘い声だ。
「や、やめろっ!」
西園寺の体は今、変に敏感になってしまっている。近衛は西園寺の乳首を指ではじき、執拗にこね回した。そうされるだけで腹が疼きだす。
「旭さ、俺ら以外とこうゆうことした経験ある?」
「あ、あるわけないだろ……」
一条の質問を西園寺は間髪入れずに否定した。オメガは十八歳から正式に番う事を許されるが、大抵のオメガはヒートを一人でやり過ごすことができない為、パートナーを持つことがほとんどである。しかし、プライドの高い西園寺はパートナーを持つどころか、性行為さえしたことがない。
「そっか。やっぱりね」
一条は怪しく口角を上げ、西園寺のベルトを腰から引き抜いた。
「この前、オメガの体に関して面白い論文を見たんだ」
「え、なに?」
宝来が興味津々といったように身を乗り出す。
「つい最近の論文なんだけど、何人かオメガの非検体のデータを取ってると、十八歳まで誰とも体の関係を持ったことがないオメガは、他のオメガよりも敏感な体を持つことが分かったんだ。十五歳で自分のバースが分かって、オメガは発情期を迎えるけど、それを薬で押さえるのと、パートナーと愛し合って収めるのとでは違いが現れるって書いてあった」
「そんな事があるのか」
近衛が感心したように呟いた。
「まあ、抑制剤はいわば湧いてきた欲望に無理やり蓋をしているような状態だからね。その分、体も欲求をため込むわけ。だから……」
一条の視線の先には、起立した西園寺の欲望があった。
直接触られたわけでもないのに、西園寺のモノは先走りの汁を垂らしている。
「み、見るな!」
あまりの醜態に、西園寺の顔に熱が集まった。足を閉じようとするも、西園寺の抵抗は一条に簡単にねじ伏せられてしまう。
「別に恥ずかしがることじゃないよ、旭。オメガなら普通の事だ」
一条が西園寺の昂ぶりを包み込む。優しく上下に擦り上げる一条の手つきに、すぐに快感がせりあがってきた。
「やめろっ、くそ……、うぁっ」
根元をしごいていた手が、西園寺の昂ぶりの先へと移動した。指の腹でそこを擦られると、耐えがたい刺激が西園寺を襲う。
「あっ、やめっ……」
腰ががくがくと震え、西園寺の下腹に熱が集まる。
(だめだ……、こんな奴らの前でイキたくない)
何とか快感を押さえようとする西園寺だが、一条の巧みな手つきがそれを許さない。今まで自慰しかしたことのない西園寺は他人に与えられる快感に慣れていない。一条は西園寺の声や反応を観察し、的確に感じる場所をついてきていて、張り詰めた西園寺の欲望が爆ぜてしまうのは時間の問題だった。
「もう、いいから……、手、放せっ」
「ん? いいよ、このままイって」
一条は西園寺のモノを扱き上げながら笑みを浮かべる。
(このままって……)
みじめな姿を人の前で晒したくはない。特にこの三人の前ではなおさらだった。しかし、そうは言っても、西園寺の体は既に限界を迎えていた。
「あっ、だめっ、だめ……ああっ!」
左右に首を振り西園寺は果てた。西園寺の鈴口から勢いよく吐き出された白濁が、腹の上に散る。
「旭かわいい」
宝来が恍惚とした表情を浮かべながら、西園寺の額に張り付いた髪をはらった。
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