新撰組の想い人 ~幕末にタイムスリップしたオメガの行方~

萩の椿

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第51話

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「土方さん、一つお願いがあるんです」

「なんだ?」

「僕、となみやに行きたいんです。あそこに行けば何か思い出す手がかりがあるかもしれなくて……」

「となみやか……、ああ、そう言えばおまえの荷物もまだあそこに置いたままだったな」

「荷物ですか?」

「ああ。この前女将から文が届いていた」

 荷物、という事は抑制剤もまだとなみやにあるという事だ。慧はホッと胸を撫でおろした。

「丁度一週間後の水曜日、非番なんだ。その時でいいなら連れて行ってやる」

「はい! ぜひお願いします!」

 慧のはしゃぎように土方は一瞬驚いた。しかし、思えば慧の笑顔を見るのはとなみや以来の事だ。

 きっと、他の隊士が今の土方を見れば驚くに違いない。鬼の副長と恐れられる土方が、こんなにも温かみのある笑みを浮かべたのは初めての事だった。

 それから慧は土方と毎日風呂に入った。時間に余裕があるからと言って、土方が慧の部屋に来ることも多くなり、食事もほとんど一緒に取るようになっていた。 

 最初は恐怖でしかなかった土方の存在も、時間が経つにつれて変わっていった。愛想は無いが、口調などは確実に棘がなくなっている。初めて会った時とは比べ物にならない。

 慧を見る目もどこか優しさがあって、最初の印象が強烈なだけあって、未だにこの優しい土方には慣れないが、それでも少しずつ慧は土方に歩み寄っていた。

 そして迎えた一週間後の水曜日。

 慧と土方は一緒にとなみやへと出かけた。







「アンタ今頃どうしたんだい?」

 となみやの庭先にいた女将が慧と土方の存在を確認して小走りで走ってきた。

「ご、ご無沙汰してます女将さん。その節はご迷惑をおかけして……」

「コイツの荷物を取りに来たんだ」

 長々と女将に頭を下げる慧の言葉を遮って土方が端的に伝えた。女将は納得したように頷いて、せかせかと建物の中に入っていき、見覚えのある鞄と服を手に提げて持ってきた。

 鞄の中身を確認すると、電池切れしたスマホと発情抑制剤のピルが入ってあった。

「ありがとうございます、女将さん」

 このピルがあるとないとでは安心感が全く違う。これで無意識に土方を誘わなくて済むし、発情期が来ても、もう怖くない。

 屯所に連れていかれた後でも、この荷物を保管してくれていた女将には感謝しなければならない。
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