52 / 69
第51話
しおりを挟む
「土方さん、一つお願いがあるんです」
「なんだ?」
「僕、となみやに行きたいんです。あそこに行けば何か思い出す手がかりがあるかもしれなくて……」
「となみやか……、ああ、そう言えばおまえの荷物もまだあそこに置いたままだったな」
「荷物ですか?」
「ああ。この前女将から文が届いていた」
荷物、という事は抑制剤もまだとなみやにあるという事だ。慧はホッと胸を撫でおろした。
「丁度一週間後の水曜日、非番なんだ。その時でいいなら連れて行ってやる」
「はい! ぜひお願いします!」
慧のはしゃぎように土方は一瞬驚いた。しかし、思えば慧の笑顔を見るのはとなみや以来の事だ。
きっと、他の隊士が今の土方を見れば驚くに違いない。鬼の副長と恐れられる土方が、こんなにも温かみのある笑みを浮かべたのは初めての事だった。
それから慧は土方と毎日風呂に入った。時間に余裕があるからと言って、土方が慧の部屋に来ることも多くなり、食事もほとんど一緒に取るようになっていた。
最初は恐怖でしかなかった土方の存在も、時間が経つにつれて変わっていった。愛想は無いが、口調などは確実に棘がなくなっている。初めて会った時とは比べ物にならない。
慧を見る目もどこか優しさがあって、最初の印象が強烈なだけあって、未だにこの優しい土方には慣れないが、それでも少しずつ慧は土方に歩み寄っていた。
そして迎えた一週間後の水曜日。
慧と土方は一緒にとなみやへと出かけた。
「アンタ今頃どうしたんだい?」
となみやの庭先にいた女将が慧と土方の存在を確認して小走りで走ってきた。
「ご、ご無沙汰してます女将さん。その節はご迷惑をおかけして……」
「コイツの荷物を取りに来たんだ」
長々と女将に頭を下げる慧の言葉を遮って土方が端的に伝えた。女将は納得したように頷いて、せかせかと建物の中に入っていき、見覚えのある鞄と服を手に提げて持ってきた。
鞄の中身を確認すると、電池切れしたスマホと発情抑制剤のピルが入ってあった。
「ありがとうございます、女将さん」
このピルがあるとないとでは安心感が全く違う。これで無意識に土方を誘わなくて済むし、発情期が来ても、もう怖くない。
屯所に連れていかれた後でも、この荷物を保管してくれていた女将には感謝しなければならない。
「なんだ?」
「僕、となみやに行きたいんです。あそこに行けば何か思い出す手がかりがあるかもしれなくて……」
「となみやか……、ああ、そう言えばおまえの荷物もまだあそこに置いたままだったな」
「荷物ですか?」
「ああ。この前女将から文が届いていた」
荷物、という事は抑制剤もまだとなみやにあるという事だ。慧はホッと胸を撫でおろした。
「丁度一週間後の水曜日、非番なんだ。その時でいいなら連れて行ってやる」
「はい! ぜひお願いします!」
慧のはしゃぎように土方は一瞬驚いた。しかし、思えば慧の笑顔を見るのはとなみや以来の事だ。
きっと、他の隊士が今の土方を見れば驚くに違いない。鬼の副長と恐れられる土方が、こんなにも温かみのある笑みを浮かべたのは初めての事だった。
それから慧は土方と毎日風呂に入った。時間に余裕があるからと言って、土方が慧の部屋に来ることも多くなり、食事もほとんど一緒に取るようになっていた。
最初は恐怖でしかなかった土方の存在も、時間が経つにつれて変わっていった。愛想は無いが、口調などは確実に棘がなくなっている。初めて会った時とは比べ物にならない。
慧を見る目もどこか優しさがあって、最初の印象が強烈なだけあって、未だにこの優しい土方には慣れないが、それでも少しずつ慧は土方に歩み寄っていた。
そして迎えた一週間後の水曜日。
慧と土方は一緒にとなみやへと出かけた。
「アンタ今頃どうしたんだい?」
となみやの庭先にいた女将が慧と土方の存在を確認して小走りで走ってきた。
「ご、ご無沙汰してます女将さん。その節はご迷惑をおかけして……」
「コイツの荷物を取りに来たんだ」
長々と女将に頭を下げる慧の言葉を遮って土方が端的に伝えた。女将は納得したように頷いて、せかせかと建物の中に入っていき、見覚えのある鞄と服を手に提げて持ってきた。
鞄の中身を確認すると、電池切れしたスマホと発情抑制剤のピルが入ってあった。
「ありがとうございます、女将さん」
このピルがあるとないとでは安心感が全く違う。これで無意識に土方を誘わなくて済むし、発情期が来ても、もう怖くない。
屯所に連れていかれた後でも、この荷物を保管してくれていた女将には感謝しなければならない。
10
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説


当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載

【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる