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第47話

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  慧が頭の中で悶々と悩んでいると、先に土方が口を開いた。

「俺たちは、その……、どこかで会ったことがあるのか?」

「え?」

「お前とは、初対面ではない気がする。ずっと昔に会ったことがあるようなそんな気がするんだ」

 土方の鋭い眼光が慧に向けられる。

「……いいえ、ないと思います……」

 咀嚼していたものをごくりと半ば強引に飲み込んで慧は言葉を返した。

「そうか」

 土方はぽつりと呟くと、皿を置いて姿勢を正す。

「お菊」

 低い声で名前を呼ばれ、慧の背筋が伸びる。

「よかったら、教えてくれないか。お前の事について」

「ぼ、僕の事についてですか……?」

「ああ、知らないことが多すぎるからな。出身はどこだ」

(出身……)

 この場合、何と答えればいいのだろうか。現代の県名を言って果たして通じるのか。変に答えて怪しまれないようにしなければならない。

「えっと……」

 言葉に詰まる慧を見て、土方は質問を変えた。

「では、お前の本当の名は? お菊というのは仮の名なのだろう」

「はい。慧です……。慧と申します」

 何だか尋問されている気分になる。
 
 質問に答えるたびに何か探られているのではないかとか、いちいち態度を見られている気がして緊張してしまう。

「そうか、お前は慧というのか」

 土方の口角が僅かだが上がった。慧は今まで土方のこんな穏やかな表情を見たことがなかったので目を瞠った。

「では、慧。聞いても良いか? お前のその香りの事について」

 ぎくりとする。香りというのは慧が出しているオメガ特有の誘い香のことだろう。

「生まれ持っての香りなのか?」

 どこまで話していいのか分からない。何か答えたら墓穴を掘ってしまうのではないかと思うと、押し黙ってしまう。

 土方は慧の顔を暫く見つめて、

「話したくないことなら、無理に話さなくていい」
 

  と落ち着いた声で言った。

「お前は秘密主義だな」

 土方は慧を見つめて優しく笑みを浮かべる。先ほどから、この土方の態度の変わりようには驚かされてばかりだ。
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