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第18話
しおりを挟む「近藤さんじゃなくて悪かったな」
慧の表情を一瞥した土方が軽く笑いながら言った。
「あ……、いえ。とんでもありません」
予想外の顔ぶれに戸惑いつつ、慧は即座に頭を下げた。
この二人が一体自分に何の用事があるのか分からないが、何となく雰囲気からしてあまり良い事ではなさそうだ。
慧はおずおずと部屋に入りふすまを閉めた。
「今日はあなたにいくつか尋ねたい事がありまして」
慧が畳に正座すると、早速沖田が問いかけてくる。
「な、なんでしょうか」
「とぼけるな、この前の池田谷事件の事だ」
土方は鋭い目で慧を睨みつけた。
「お前の言う通り、四国屋はもぬけの殻だった。攘夷派の奴らは池田屋に集中してたんだ……。何でこの情報を知っていた?」
「この前も言ったじゃないですか、勘ですよ」
慧が言うと、すかさず沖田が口を挟む。
「それはおかしい。だいたい遊女となると、こういう物事に疎いはず。それが、あなたは攘夷派のことも当たり前のように知っていたし、それにあいつらの居場所まで言い当てた……。これを勘で済ませるにはいささか無理があるのではないですか」
(詰めてくるな・・・・・・)
そうは言われても慧の生きていた時代ではそれなりに歴史を学んできたものならば、攘夷派という言葉を何となく知っている人も多いのではないだろうか。
慧の場合は、大学でこの時代について学んでいたから尚更だ。
しかし、沖田の隙のない言い分に、慧は言い返すことができない。何か反論できる要素はないか、頭の中で言葉を必死に探していると、突然、土方が慧の襟元を掴んだ。
「何を隠してる」
「……何も隠してません!」
「嘘をつけ、あらかた、攘夷派の回し者だろう。なんで俺たちに情報を漏らしたのかは分からんが」
「ち、違います!」
近藤の為を思って言った事が、よりにもよって、一番誤解されたくない方向に行ってしまっている。
(僕が攘夷派って、有り得るわけないだろ!)
心の中で悪態をつきながらも、土方の威圧を目の前にしてはそれを言葉にすることは難しい。
(どうすればいいんだ……)
追い詰められれば追い詰められるほど、誤解を解くための言葉が思い浮かばない。
慧が黙り込み俯いていたその時、突然、沖田が後ろに回り込み、慧の腕を縛った。
「え?」
戸惑う暇もなく、体を抱え込まれ動けなくなる。
「やめてください! なんなんですか?!」
「問い詰めたって、白状しそうにないからな。今からお前を調べる」
「調べるって何を……」
困惑する慧をよそに、土方は懐から透明な小瓶の様なものを取り出した。中には紫色に染みた脱脂綿の様なものが入っている。
土方は慧の口を押さえつけそれを鼻にあてがった。
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