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第16話

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※ 少々歴史と違う部分がありますが、ご了承ください。



近藤が硬い表情で腕を組んでいる。

時々、うーんと唸ったりしながら眉間にしわを寄せ、何かを考えこんでいるようだ。

(……何かあったのかな?)

せっかくの近藤の来訪に胸を躍らせたのもつかの間、その様子に心が沈む。

これでは会話もできやしないじゃないか。

かといって、この状況で、話しかけてもいいものか分からず、近藤を横目でチラチラと確認しながら、慧は空いた酒器に酒を注いでいた。




そんな慧を見て、蘭はため息が出た。

蘭は三日間慧を教育した後は、機会に恵まれず一緒に仕事をすることがなかった。しかし、女将から、慧が数々の太客に気に入られていると聞かされ、仕込んだ甲斐があったなと思っていたのだ。

(だけど、どうなんだい? これは……)

慧は近藤の様子を気にして、話しかけることも、場を盛り上げることもしない。

まるで遊女の風上にも置けないじゃないか。

自分の教育もまだまだだなと、内心ため息をつきつつ、蘭が話題を切り出した。

「皆さん、お堅い顔をして。何かあったのですか?」

蘭の声に近藤はようやく顔を上げた。

「ん? ああ、すまねえ。蘭さんもお菊さんも気を付けてくれ。最近捕縛した攘夷派の奴から、倒幕計画が練られていることが分かってな。池田屋の辺りが物騒になってる」

「攘夷派ですか?」

となみやから、ほとんど外へ足を踏み出すことのない蘭は、こういう話題に疎い。初めて聞いた言葉に首を傾げながら近藤に聞き返した。


しかし、慧には聞き覚えがある言葉だった。


(池田屋ってもしかして、あの池田谷事件のことか……?)


心臓がドキリと跳ねる。


昨日見た夢の中の記憶で、歴史の教授がひと際熱く語っていたのが池田谷事件だった。

この事件が新選組を有名にさせたとかで、敵の方が圧倒的な数だったにもかかわらず、それでも新選組は戦い抜いたのだと、まるで自分の手柄の様に話していた。

「四国屋に池田屋と怪しい場所が多くてな。あいつら一体どこに潜んでるんだかわかりゃしねえ」

難しい顔で酒を飲んでいた土方が頭を掻く。

「あいつらの、居場所さえ掴めればすぐさま取り押さえることができるのに」
 
沖田がその端正な顔をゆがめて、こぶしを畳に打ちつけた。


確か、この事件はかなりの深手を負った隊士もいたとか。もしかすると、目の前にいる近藤も、どこかしら怪我をしていたのだろうか? そう思うと、胸が締め付けられる。
 


 慧は近藤の顔をまっすぐに見つめた。眉根を寄せ深刻な顔をしていることから、かなり手を焼いていることだけは分かる。その様子を眺めるだけで何か助言をしてやりたい気持ちになった。


池田屋事件は、その名の通り池田屋で起こった事件だ。四国屋は関係ない。攻めるなら、池田谷の方だと言ってやりたい。

 
しかし、それはきっと許されないことだろう。自分の発した一言で歴史が変わってしまうかもしれないのだ。


 そう頭の中では分かっているのに……。



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