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第13話
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「アンタ……、アンタ……」
脱衣所に入ってきた女将は、慧に指をさしながら口を金魚の様にパクパクさせている。
視線は慧のモノにくぎ付けだ。
「あ……!」
急いで慧は持っていたタオルで自分のモノを隠す。
「お菊……、アンタ男だったのかい?!」
女将は信じられないと言ったように慧に問いかける。
「はい……」
慧が渋々頷くと、女将は慧の肩を掴んだ。
「何でもっと早く言わなかったんだい!」
「だってそれは……」
(それは、女将さんが……)
最初は女将に人手が足りないからという理由で無理やりお店に出さされた。
自分が男だという暇もなく、あれよあれよという間にお客さんの前に立たされたのだから仕方がない。
しかし、確かに言おうと思えばタイミングはあった。
慧が、ここまでリスクを犯してでも隠してきたのには理由があった。
まず、ここを出たところで行く宛てがないというのが1つ。
それから、ここにいれば必ずまた近藤に会う事ができるというのがここに慧を踏みとどまらせた最大の要因だった。
もう一度、会って話がしたい。
簪をさした姿を見て欲しい。
慧は自分でも気づかないうちに、少しずつ近藤に惹かれていた。
そういう理由が重なって、慧は今の今まで隠していたのだ。
女将が大きくため息をつく。
「男なら、ここに置いておくわけにはいかないね」
「そんな……」
「あたりまえだろう……、まったくそんな綺麗な顔して男なんて信じられないよ。すぐさま出てってくれ」
女将が端に置いてある椅子に座りながら手で追い払うような仕草をした。
「借金は……?」
慧がここで働くことになった原因だ。
まだ残っているのなら、それを返すまで働かせて欲しいとか何とか言って、置いてもらえるかもしれない。
「そんなもん、この前の大宮さんの売り上げで完済できてるよ」
しかし、女将は乾いた笑みを浮かべ慧を軽くあしらう。
(どうしよう、ここを出たところで行く当てなんてない)
生きてきた時代も違うのだ。となみやを出たところで行き倒れるのがオチだろう。
「僕、なんでもしますから。ここを出て行ったところで行く当てなんてないんです」
「そうは言ったってね、お菊。ここは遊郭だよ、男が入れるような場所じゃない」
そんな事、言われなくても分かっている。
それを承知で頼み込んでいるのだ。
しかし、女将は渋い顔をして俯いている。
このままでは本当に追い出されてしまうと悟った慧は、どうすれば女将を説得できるのか必死に頭を回した。
そして、ある一つの考えに行きつく。それも女将が食いつきそうないい考えに。
「女将さん、一つ提案があります」
脱衣所に入ってきた女将は、慧に指をさしながら口を金魚の様にパクパクさせている。
視線は慧のモノにくぎ付けだ。
「あ……!」
急いで慧は持っていたタオルで自分のモノを隠す。
「お菊……、アンタ男だったのかい?!」
女将は信じられないと言ったように慧に問いかける。
「はい……」
慧が渋々頷くと、女将は慧の肩を掴んだ。
「何でもっと早く言わなかったんだい!」
「だってそれは……」
(それは、女将さんが……)
最初は女将に人手が足りないからという理由で無理やりお店に出さされた。
自分が男だという暇もなく、あれよあれよという間にお客さんの前に立たされたのだから仕方がない。
しかし、確かに言おうと思えばタイミングはあった。
慧が、ここまでリスクを犯してでも隠してきたのには理由があった。
まず、ここを出たところで行く宛てがないというのが1つ。
それから、ここにいれば必ずまた近藤に会う事ができるというのがここに慧を踏みとどまらせた最大の要因だった。
もう一度、会って話がしたい。
簪をさした姿を見て欲しい。
慧は自分でも気づかないうちに、少しずつ近藤に惹かれていた。
そういう理由が重なって、慧は今の今まで隠していたのだ。
女将が大きくため息をつく。
「男なら、ここに置いておくわけにはいかないね」
「そんな……」
「あたりまえだろう……、まったくそんな綺麗な顔して男なんて信じられないよ。すぐさま出てってくれ」
女将が端に置いてある椅子に座りながら手で追い払うような仕草をした。
「借金は……?」
慧がここで働くことになった原因だ。
まだ残っているのなら、それを返すまで働かせて欲しいとか何とか言って、置いてもらえるかもしれない。
「そんなもん、この前の大宮さんの売り上げで完済できてるよ」
しかし、女将は乾いた笑みを浮かべ慧を軽くあしらう。
(どうしよう、ここを出たところで行く当てなんてない)
生きてきた時代も違うのだ。となみやを出たところで行き倒れるのがオチだろう。
「僕、なんでもしますから。ここを出て行ったところで行く当てなんてないんです」
「そうは言ったってね、お菊。ここは遊郭だよ、男が入れるような場所じゃない」
そんな事、言われなくても分かっている。
それを承知で頼み込んでいるのだ。
しかし、女将は渋い顔をして俯いている。
このままでは本当に追い出されてしまうと悟った慧は、どうすれば女将を説得できるのか必死に頭を回した。
そして、ある一つの考えに行きつく。それも女将が食いつきそうないい考えに。
「女将さん、一つ提案があります」
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