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第12話
しおりを挟む「お菊、なんかいいことあったのかい?」
その夜、慧の顔に化粧を施している蘭があきれ顔で聞いた。
「え?」
「さっきから顔がにやにやしてんだよ」
慧は驚いて自分の頬に手を当てる。
無意識であった。
頭の中は今日近藤に連れて行ってもらった場所の景色や、貰った簪のことでいっぱいだったのだ。
「あ、そうだ蘭さん。これ、つけてくれませんか?」
慧は近藤からもらった簪を蘭に渡した。
「へえ、奇麗だね」
蘭は簪を一瞥して慧のまとめあげた髪に刺す。
慧は出来上がった髪型を手鏡で満足そうに眺めた。
艶のある黒髪に朱色の簪が映え、首を少し動かせば、からんと鈴の音が鳴る。
『お菊さんは華やかだからよ。なんか朱色って感じなんだよな、俺の中で』
近藤に言われた言葉が思い浮かび、笑みがこぼれた。
「なにしてんだい? さっさといくよ」
蘭はそんな慧の肩を叩いて急かした。
「はい!」
それから、慧はしばらくとなみやで過ごした。
三日間、蘭の下について仕事をこなした後、慧は独り立ちをして他の遊女とも仕事をするようになった。
しかし、慧の仕事は遊女ではなく、あくまで接客係という、お客に酒をついだり、舞を舞ったりする仕事内容だった。
どうやら、客がつかないうちはこうして下積みを重ねるそうだ。
夜に店が開き、夜明けまで働く。その後は風呂に入って汗を流す。
慧は性別がバレぬよう、風呂は皆が寝静まった後にひっそりと入っていた。
はずなのだが……。
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