上 下
8 / 69

第7話

しおりを挟む


しばらく経ってから外へ出ると、土方が仁王立ちで立っていた。



「お前、中で何してた」


鋭い眼光で慧を睨む。


「えっと、ち、ちょっと、体調を崩しまして。中で休んでおりました」


土方は舌打ちして慧の襟首を掴む。


「嘘つけ!」


つま先立ちになった慧は呼吸もままならない。


「やめてください……」


震える手で、土方の手を掴む。



「お前、俺に何をした?」



「え……?」



「今は消えてるが、俺はお前の匂いに引かれてここまで来た。まるで理性が効かなくなって、本能でお前を追っていた。酒になにか入れたんだろ?」



「いいえ……、そんなことしてません」


慧は必死に首を横に振った。


「本当か?」

「はい、誓って……」


土方はしばらく慧の目を見つめてから、手を離した。


途端に慧はうずくまり咳き込む。


(殺されるかと思った……)


慧が涙目で見上げると、すっと、土方が手を差し出した。


「すまなかった、その……俺の勘違いだったのかもしれん……。立てるか?」


「はい……」



慧は土で汚れた膝元を払って手を取った。








その後、部屋に戻った慧はまた蘭にお叱りを受けた。

それでも、しっかりと絞られた後は、それなりに仕事をこなした。

近藤の話を聞き、酒を注ぎ、話を聞いて、また酒を注ぐ。

単純な仕事のように思うが、全て相手のペースに合わせなければならないので、とても気を使う仕事だ。


その点、蘭は仕事慣れしているということもあって、容量良くこなしていた。


気難しいと思っていた土方も酒が入るにつれて、威圧感がなくなり、ぽつりぽつりと喋るようになった。


しかし、沖田だけは違った。

直接、話しかけては来ないものの、じっと慧を見つめ、目が合えばニコリと微笑むだけ。

何を考えているのかさっぱり分からない。

慧は沖田と目が合わないようになるべく俯いて土方に酒を注いだ。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

【完結】もう一度恋に落ちる運命

grotta
BL
大学生の山岸隆之介はかつて親戚のお兄さんに淡い恋心を抱いていた。その後会えなくなり、自分の中で彼のことは過去の思い出となる。 そんなある日、偶然自宅を訪れたお兄さんに再会し…? 【大学生(α)×親戚のお兄さん(Ω)】 ※攻め視点で1話完結の短い話です。 ※続きのリクエストを頂いたので受け視点での続編を連載開始します。出来たところから順次アップしていく予定です。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...