新撰組の想い人 ~幕末にタイムスリップしたオメガの行方~

萩の椿

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第6話

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「ちょっと、お菊!どこ行くんだい!」

蘭の声を背中で受け止め、廊下を進み、元きた部屋へと戻った。

急いでカバンをたぐり寄せ、発情抑制剤のピルが入った瓶を出す。

「はぁ……はぁ……」

恐怖なんて感じてないはずなのに、何故か指先が震える。

(早く、飲まないと……)

焦りで額から汗が垂れたその時、激しい頭痛が慧を襲った。



『お前オメガだろ』



ノイズ音と共に、誰かも分からない声が聞こえる。



『1発ヤラせてくれよ』



黒い影が次第に増えていき、慧の足元に忍び寄った。


(何だ、この記憶……)


何となく覚えているが、所々欠けていてどこか曖昧な記憶だ……。











「おい」


男の低い声が慧の意識を呼び戻した。


恐る恐る後ろを振り返ると土方が立っている。

顔を赤く染め、少し息が上がっているように見える。

土方から漂ってくる強い匂いで、慧は一瞬で理解した。


(この人、アルファだ……)


土方が慧との距離を詰める。

「お前、何者だ」

「いや……、僕は……」

後ずさりした慧の背中に硬い壁が当たる。

土方は慧の前にしゃがみ、両手を壁について顔をのぞき込む。


(とりあえず、早く薬を飲まないと……)


しかし、この状況では落ち着いて飲めれそうもない。

土方は段々と慧のうなじに顔を近ずける。


「やめて!」



慧は土方の胸を思いっきり押した。


「っおい!」


慧は部屋を飛び出して走った。


(鍵……どこか鍵のかかる部屋……)


体温がどんどん上昇して、体が火照る。


後ろから、後を追ってくる足音が聞こえ、慧は必死になって逃げた。



どんちゃん騒ぎな部屋をいくつか通り過ぎた先に、人気のない小さな小屋があった。


(あそこだ!)


慧は小屋まで走り、近くにあったホウキを床に挟んで、ドアを開けられないよう固定した。

外からガタガタとドアを無理やり開けようとする音が聞こえてくる。


(早く……)

慧は瓶を開けてピルを2粒取りだして飲み込んだ。

たちまち、体の力が抜け床に座り込む。

「危なかった……」






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