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第3話

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日が暮れるにつれて、次第に周りは騒がしくなって行った。

賑やかに話す人々の声や、お筝の音色につられて、部屋を出ると、そこはまさに歴史資料で見た事のある遊郭そのものだった。

派手な着物に身を包んで踊っている女や、座って男に酒を注いでいる女。

そして、奥の方から聞こえるみだらな喘ぎ声。


慧の額から汗が滴る。


しかし、仮にここが本物の遊郭だとするならば、おかしな点がある。

まず、慧の生きている時代に遊郭は存在しないという事だ。遊郭はそもそも、昭和には姿を消したとされている。

(あれ……。今って令和だよな……)

「……おかしくないか!」

慧は頭を抱えた。

「いやいや、こんなのありえない。何かのドラマのセットでしょ。うん、大河ドラマとかで見たことあるもん」

盛大な独り言を言いながら、頭を布団に擦り付けていたその時、勢いよく襖があいた。


「アンタ!」


廊下には息を切らした女将と、その後ろに若く端麗な女が1人立っていた。

「人手が足りないの!やっぱり、今すぐ店に出て!」

「えっ」

「とりあえず、化粧は蘭に手伝わせるから!」


女将の後ろに立っていた女がズカズカと部屋に入ってくる。

「蘭、あとは頼むよ!」

女将はそう言って、襖を勢いよく閉め、台風のごとく去っていった。


女はため息をついて慧に近づく。


「めんどくさいわぁ。たったと始めてしまおうや」

慧の顎を掴み、顔を確認するようにして左右に向かせる。

「あの……」

「まあ、どこの誰かも知らんアンタを店に入れて、食べ物まで食わしてやったんや。ちょっとぐらい手伝ってな」

「……いや、僕……その」

「なんや、恩を仇で返すつもりなん?」

女は鋭い瞳で慧を睨んだ。

「そ、そういう訳では……」


(この人、顔は綺麗なのに、めちゃくちゃ怖い……)


「だったら、大人しく手を貸しいや」

女は手に持っていた風呂敷を素早く広げ、慧と向かい合って座った。

中には柔らかそうな毛がついたブラシや紅と書かれた小瓶がゴロゴロと入ってある。


「しばらく目、閉じときんさい」

「はぃ……」

慧は反抗する気力もなく、目を閉じた。

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