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二章 過去編
第60話
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「なんで……」
一郎が愛おしかった。
玲子は、一郎と最後に会った時から一歩も前に進めていなかった。あの時の思いに捕らわれたままだ。
一郎の元に向かいそうになる足を必死に止めた。きっと嫌な顔をされるから。
ここで留まろう。そして、辰美の元に帰ろう。そうしたら、昨日と何も変わらない、何事もない一日で終わる。
(一郎とはもう、終わりだって分かってるのに……)
「探したよ」
ふいに声が聞こえ、振り返ると辰美がいた。
「一郎君を見てたの?」
「え……」
「少し前から玲子の事見てた」
辰美は玲子との距離を詰めた。顔を覗きこまれ玲子は表情を上手く繕えなくなる。
また、何かされるのではないだろうか。一郎と玲子が関わると、辰美は残虐な行為を平気でする。
あの時だって、一郎に玲子が辰美に無理やり抱かれたときの映像を見せた。
もうあんな思いは二度としたくない。
「別に、そんなんじゃないわよ」
仕事中に初めて辰美にため口を聞いた。でも、今は何だかそっちの方が良い気がした。
「早く仕事に戻りましょう」
玲子は踵を返して、歩く。
とにかく早く一郎から辰美を遠ざけたかった。
「見てるだけって、辛いよね」
「は?」
後ろから聞こえた、意味深な言葉に玲子は振り返った。
「分かるよ、俺もずっと好きな人を見てるだけだったから」
辰美の顔からは哀愁が漂ってくる。
この場合、辰美の「好きな人」というのは自分と考えるべきなのだろうかと玲子は迷った。
しかし、常々思うのだが辰美にそういう意味で好かれていたとは考えられない。高校の時だって妙に嫌がらせばかりしてきたわけだし。
今だって、辰美は優しくない。玲子が嫌だと言ったことでも平気でしてくる。
好きな相手ならば、もっと親切にするのが普通なのに。
一郎が愛おしかった。
玲子は、一郎と最後に会った時から一歩も前に進めていなかった。あの時の思いに捕らわれたままだ。
一郎の元に向かいそうになる足を必死に止めた。きっと嫌な顔をされるから。
ここで留まろう。そして、辰美の元に帰ろう。そうしたら、昨日と何も変わらない、何事もない一日で終わる。
(一郎とはもう、終わりだって分かってるのに……)
「探したよ」
ふいに声が聞こえ、振り返ると辰美がいた。
「一郎君を見てたの?」
「え……」
「少し前から玲子の事見てた」
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また、何かされるのではないだろうか。一郎と玲子が関わると、辰美は残虐な行為を平気でする。
あの時だって、一郎に玲子が辰美に無理やり抱かれたときの映像を見せた。
もうあんな思いは二度としたくない。
「別に、そんなんじゃないわよ」
仕事中に初めて辰美にため口を聞いた。でも、今は何だかそっちの方が良い気がした。
「早く仕事に戻りましょう」
玲子は踵を返して、歩く。
とにかく早く一郎から辰美を遠ざけたかった。
「見てるだけって、辛いよね」
「は?」
後ろから聞こえた、意味深な言葉に玲子は振り返った。
「分かるよ、俺もずっと好きな人を見てるだけだったから」
辰美の顔からは哀愁が漂ってくる。
この場合、辰美の「好きな人」というのは自分と考えるべきなのだろうかと玲子は迷った。
しかし、常々思うのだが辰美にそういう意味で好かれていたとは考えられない。高校の時だって妙に嫌がらせばかりしてきたわけだし。
今だって、辰美は優しくない。玲子が嫌だと言ったことでも平気でしてくる。
好きな相手ならば、もっと親切にするのが普通なのに。
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