傲慢令嬢、冷徹悪魔にいつの間にか愛されて縛られてました

萩の椿

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二章 過去編

第59話

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   それから時は過ぎ、玲子は秘書という仕事にだいぶ慣れてきた。辰美のフォローはもちろん、会食など他の会社の社長と食事を共にすることがあっても、いちいちマナーには躓かなかった。

 辰美が教えてくれたことが、こういう場では役に立っていた。

 そして今、玲子と辰美は共にショッピングモールの視察に来ている。

「東西社長、少しお時間よろしいでしょうか?」 

 相手方の社長から辰美に声がかかった。玲子は辰美の後ろについて行こうとしたが、
「内密な話なのですが……」
 と相手が気まずそうな顔をしたので、一礼して下がった。

 話の内容が聞こえないように、辰美たちからなるべく離れた場所に来た。

 このショッピングモールは、以前来たことがある。一郎と付き合っていた時だ。 

 お互いに服を選び合ったり、映画館でデートしたりして休日を過ごしていた時もあった。

 少し時間ができたので、ショッピングモール内を回ってみたが、どこも一郎と来ていた頃と内装は変わっていなかった。たまに、あったはずの店が違う店に変わっているくらいだ。

「なつかしい」 

 玲子の足はとある玩具店の前で止まる。

 以前、一郎と就職の話をした時、一郎がこの玩具店に勤めたいと言っていた。自分は子供が好きだから、子供の喜ぶ顔を見ることができる場所で働きたいと。 

 あと一年もすれば、もしかしたら一郎はここで務めているかもしれない。

「少し、時間が欲しい」

と言って玲子の前から姿を消した一郎とは、あれから会っていない。会える状況ではなかったし、携帯も辰美に没収されていたので、一郎から連絡が来ていても玲子には伝わらなかった。 

あの落胆した後姿が、最後に見た一郎の姿だ。あの時の一郎を思い出すと、辰美が憎くて仕方ない。

勝手に苛々して、傷ついて、気分を害される。

もう、忘れよう。過ぎた事なのだから。 

玲子が、玩具店の前から立ち去ろうとした時だった。 

「ありがとうございましたー!」

 店内から聞こえたその声には聞き覚えがあった。聞き間違えるはずがない、約三年間毎日聞いていた声だから。 

 店内にくまなく視線を巡らせると、一郎の姿があった。 

 一郎はまだ玲子には気づいていない様で、上司らしき人の話を頷きながら聞いている。

 玲子は咄嗟に身を隠した。

 心の底から会いたいと願った人なのに、何故か見つかりたくないと思ってしまう自分がいる。

 それはきっと、一郎から目を逸らされるのが怖いから。多分、勘ではあるけれど一郎はもう二度と自分とは話したくないと思っているに違いない。

 そう思われて当然の行為をしたから。

 一郎に見つからないような場所へ移動する。遠くから眺めておくだけでいいのだ。

 この時期だから、インターシップに来ていると考えるのが妥当だろう。自分に教えてくれた夢が、関係が終わった今でも変わっていないのは少し嬉しかった。

 一郎は、一生懸命接客をしている。まだ不慣れではあるけれど、子供の目線に合わせてしゃがんだり、上司らしき人の話を真面目に聞いている。

 離れてしまって声は聞こえなくなってしまったけれど、一郎の姿が見えるだけで良い。一郎を見ていると、昔一緒に過ごした様々な思い出が蘇ってくる。

 こういう時だけ、いい思い出が浮かんでくるのは何故なのだろうか。きっともう、二度と戻ることのできない関係だから、嫌な思い出で満たされて、さっぱりと諦めたいのに。

 諦めてしまえば楽になる。そう分かっているのに脳が拒否をする。
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