58 / 72
二章 過去編
第56話
しおりを挟む
遠くから自分を呼ぶ声が聞こえる。その声につられて目を開けると、目の前に辰美がいた。
「やっと起きたね、もう夜だよ」
「近寄らないで」
玲子は辰美の胸板を押し返し、体を起こした。窓もないので、空の模様も分からかったが、どうやら、一日中寝て過ごしてしまったらしい。
「夜ご飯、できてるって。食べようよ」
辰美が朗らかな口調で言った。
夜ご飯というワードに玲子の腹の虫がぐうっと反応する。
玲子はメイドが並べてくれたのであろう、料理があるテーブルについた。
温かいスープがじんわりと体に染みわたっていく。
ショックな事が色々あって、食欲がわかなかったから、てっきり体が食事を拒絶しているのかもと思っていたが、手を付けて行くにつれてどんどんと食欲が湧いてきた。
別に料理を取られるわけでもないのに、急いで口に料理を運ぶ玲子を見て辰美は笑った。
「なに」
玲子が低い声で睨みつけると、「別に」と辰美は首を振った。
「そうだ。一つ提案があるんだけど。お嬢、俺の秘書として働いてみない?」
「秘書……?」
「ああ。ずっとここに閉じこもっておくよりも、外に出た方が良いかなって思ったんだけど」
辰美は自分の元に置いておいた方が監視しやすいからという理由は、あえて言わなかった。
玲子は料理から目を離して、辰美を見る。
今度は一体何を考えているのだろうか。胡散臭いその笑顔からは、辰美の思惑が読み取れない。
しかし、日常的に外に出ることができるというのは、とてもいい条件だ。この部屋は光が入らないから心がやんでしまうし、行動制限をされるのがすごく嫌だった。
けれど、『辰美の秘書』として扱われるのは何だか癪に障る。
それでは何だか、立場的に辰美の方が上みたいだし、辰美とセットで呼ばれるなんて嫌だ。
けれど、本当に外に出ることができるのなら……。
「どうする? なるべく早めに返事が欲しいんだけど」
辰美からその話が出た時点で、玲子の中で答えは決まっていたように思う。
「……いいわ。あなたの秘書、やってあげる」
とにかく、もうこの部屋にいるのは嫌だった。何も予定なくダラダラと過ごすのも、もう全部が嫌だった。
この部屋から逃れられるなら、辰美の秘書でも何でもする。
玲子がそう言うと、辰美は口角を上げて笑った。
「やっと起きたね、もう夜だよ」
「近寄らないで」
玲子は辰美の胸板を押し返し、体を起こした。窓もないので、空の模様も分からかったが、どうやら、一日中寝て過ごしてしまったらしい。
「夜ご飯、できてるって。食べようよ」
辰美が朗らかな口調で言った。
夜ご飯というワードに玲子の腹の虫がぐうっと反応する。
玲子はメイドが並べてくれたのであろう、料理があるテーブルについた。
温かいスープがじんわりと体に染みわたっていく。
ショックな事が色々あって、食欲がわかなかったから、てっきり体が食事を拒絶しているのかもと思っていたが、手を付けて行くにつれてどんどんと食欲が湧いてきた。
別に料理を取られるわけでもないのに、急いで口に料理を運ぶ玲子を見て辰美は笑った。
「なに」
玲子が低い声で睨みつけると、「別に」と辰美は首を振った。
「そうだ。一つ提案があるんだけど。お嬢、俺の秘書として働いてみない?」
「秘書……?」
「ああ。ずっとここに閉じこもっておくよりも、外に出た方が良いかなって思ったんだけど」
辰美は自分の元に置いておいた方が監視しやすいからという理由は、あえて言わなかった。
玲子は料理から目を離して、辰美を見る。
今度は一体何を考えているのだろうか。胡散臭いその笑顔からは、辰美の思惑が読み取れない。
しかし、日常的に外に出ることができるというのは、とてもいい条件だ。この部屋は光が入らないから心がやんでしまうし、行動制限をされるのがすごく嫌だった。
けれど、『辰美の秘書』として扱われるのは何だか癪に障る。
それでは何だか、立場的に辰美の方が上みたいだし、辰美とセットで呼ばれるなんて嫌だ。
けれど、本当に外に出ることができるのなら……。
「どうする? なるべく早めに返事が欲しいんだけど」
辰美からその話が出た時点で、玲子の中で答えは決まっていたように思う。
「……いいわ。あなたの秘書、やってあげる」
とにかく、もうこの部屋にいるのは嫌だった。何も予定なくダラダラと過ごすのも、もう全部が嫌だった。
この部屋から逃れられるなら、辰美の秘書でも何でもする。
玲子がそう言うと、辰美は口角を上げて笑った。
0
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
お酒の席でナンパした相手がまさかの婚約者でした 〜政略結婚のはずだけど、めちゃくちゃ溺愛されてます〜
Adria
恋愛
イタリアに留学し、そのまま就職して楽しい生活を送っていた私は、父からの婚約者を紹介するから帰国しろという言葉を無視し、友人と楽しくお酒を飲んでいた。けれど、そのお酒の場で出会った人はその婚約者で――しかも私を初恋だと言う。
結婚する気のない私と、私を好きすぎて追いかけてきたストーカー気味な彼。
ひょんなことから一緒にイタリアの各地を巡りながら、彼は私が幼少期から抱えていたものを解決してくれた。
気がついた時にはかけがえのない人になっていて――
表紙絵/灰田様
《エブリスタとムーンにも投稿しています》

溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる