傲慢令嬢、冷徹悪魔にいつの間にか愛されて縛られてました

萩の椿

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二章 過去編

第51話

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 謝りたくなかったら、謝らなければいいのに。ひねくれているくせに、父親に従う所は妙に素直なんだから、おかしい。
 
辰美は玲子の顔を見て噴き出した。

「な、なにがおかしいのよ!」

 玲子は立ち上がり、辰美に向かって叫ぶ。

「ああ、いや。別に」

 咳払いをして玲子に買ってきたマカロンを手渡した。

「これ、お嬢洋菓子が好きだって言ってたから、マカロン。俺も悪かったよ、これで許して」

 玲子は辰美を睨み上げながらも、マカロンというワードに反応した。

「こんなもので許してもらえると思わないでね。でも、そうね。せっかく買ってきてくれたのだからありがたく貰おうかしら」

 玲子は辰美から受け取った紙袋を手早く開けた。そこには色とりどりのマカロンが五つ綺麗に並んである。

 口に含んで玲子は頬っぺたを抑えながら微笑んだ。

「おいしい」

「そう。よかった」

 なんとか、玲子の機嫌が直ったことに安堵する。

今回みたいな失敗をしないように、次は、もっとうまくやらなければならない。恐れられないように、自分に好感を持ってもらえるように。

玲子とは長い時間を共にしたけれど、自分を良く見せようなんて今までしなかった。だから、今までの時間を取り返すためにも、もっと努力しよう。

玲子との距離が近くなるように。

 




そう思っていた矢先———。






「玲子が高校三年生になったら、辰美君との授業を終了させようと思うんだ。ほら、もう受験生になるでしょ? 忙しくなるからさ。辰美君も今までご苦労だったね、本当に君には感謝しかないよ」

 大輔は朗らかに微笑んだ。

 授業を終えて、西園寺邸を出ようとしていたところ、丁度会社から帰ってきた大輔と出くわした。

 暫く、話もしていなかったのでゆっくりお茶でもしようという事になり、客間でコーヒーを頂いていたところ、唐突に大輔から切り出された。

玲子は今、高校二年生の春。従って一緒にいられる時間は、あと一年しか残されていないという事か。

 いつまでも、この関係が無限に続くとは思っていなかったけれど、それでも終わるときの事を考えると、なんだか寂しくてなるべく想像しないようにしていた。

 玲子も成長した、いつまでもあの我儘な子どものままじゃない。

 もう、自分が指導しなくたって立派な女性だ。 

 覚悟していたことだけれど———。

「いえ、玲子さんの飲み込みが早いからですよ。僕は特に何もしてません」

「また、そんな……。でも、本当助かったよ。おかげで、玲子に見合い話が結構来るようになって」

「……っ見合いですか?」

 一瞬、コーヒーを吹き出しそうになった。見合い、その言葉が辰美の心を抉る。

「うん、この前の舞踏会で気に入ってくれた方が結構いてね。まあ、玲子が全部断っちゃったんだけどね。自分は恋愛結婚がいいんだって」

「そうですか」

 辰美はホッと胸をなでおろす。

 確かに玲子のあの外見は人を引き付ける。公の場では猫を被っているのだから、なおさら魅力的な女性に見えるだろう。


「まあ、僕は正直、玲子にはそれなりの男性と結婚してほしいよ。この西園寺家の為にもね……。こんなこと君に言っても仕方ないのだけれど」

 大輔は頬を掻いて苦笑した。

 それなりの男性、その中にきっと自分は入っていない。西園寺家に見合う財閥と言えば、数も限られてくる。東西グループなんて、目にも止まらないだろう。

 大輔の言葉がまるで魚の骨みたいに、辰美の心に引っかかった。


 それからしばらく、たわいのない話をして大輔とは別れた。

「それなりの男か」

 帰り際、辰美は独りごちる。アキラから、言われた言葉が脳裏に蘇った。

「手の届くような相手じゃない」

 分かってたつもりではあったけれど、玲子の父親から見合いの話を聞かされると現実味が増して辛かった。
 
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