傲慢令嬢、冷徹悪魔にいつの間にか愛されて縛られてました

萩の椿

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二章 過去編

第41話

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それから一週間後、辰美の父親は亡くなった。

虫の知らせとでも言うのだろうか、その日はやけに寝苦しく、深夜に目が覚めてしまい、リビングに水を飲みに行ったところで、倒れている父親を発見した。

心肺は既に停止しており、病院に運ばれた後、死亡が確認された。
 

父親と話した最後の内容は、母親が浮気をしていたということ。

今思えば、もっと明るい話をしておけばよかったと思う。

最後まで、あんなに苦しそうな顔をして。

戻らない母を思いながら、父親は死んだ。






すぐに葬儀が執り行われ、そこには、大輔、それから玲子の姿も見受けられた。

対応に追われ挨拶をすることはかなわなかったが、父を思い来てくれたのだと思うとやはりありがたかった。



葬式が終わってからも、辰美に下を向いている暇はなかった。

ただでさえ、仕事が立て込んでいるというのに、葬式というイレギュラーな物事が入ってしまい、辰美のスケジュールはすこぶる忙しかったのだ。



流石に、父親が亡くなった週は慌ただしくて玲子の元へ行くことはできなかったが、休み続ける訳にもいかない。

馬車馬のごとく働いて、1週間で遅れを取り戻し、翌週、辰美はいつも通り西園寺家本邸へと向かった。



「この場合は、少し難しいけどこうなるんだ。それで、逆にこの場合は———」


「辰美」


 いつも通り授業を進めていると、普段はけだるそうに授業をうけている玲子が珍しく名前を呼んでくる。

「なに、何か分からないとこあった?」

「そうじゃなくて、大丈夫なの?」

玲子は滅多に見せない柔らかい表情をしている。

気遣わし気にこちらを見ていることから、すぐに自分の父親の事を言われているのだと悟る。
 

「大丈夫だよ、いつも通り」

「それ、おかしいわよ」

笑う辰美に対し玲子は鋭く言い放つ。

「自分の肉親が亡くなって、いつも通りっておかしい」
 
自分をまっすぐに射貫く玲子から、何故か顔を逸らしてしまう。

手元にあった教材に目を落としながら、辰美はぼそぼそと呟いた。

「それは人それぞれでしょ。案外平気な人もいるし、俺とか特に仕事に追われてそれどころじゃないんだよ。いつまでも引きずっていられない」

 辰美の言い分に玲子は大きなため息をついて、辰美の手を掴んだ。

「え、なに?」

「いいから、黙ってついてきて」

玲子は中庭のドアを開け、庭園の奥へと進んで行く。

訳も分からず、少女に導かれるまま辰美は歩いた。

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