傲慢令嬢、冷徹悪魔にいつの間にか愛されて縛られてました

萩の椿

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二章 過去編

第35話

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 無視をするのも失礼かと思ったので一応会釈程度に頭を下げると、何故か大輔がまっすぐこちらに向かってきた。




「君とは初めましてだね」

にんまりとした笑顔を浮かべ、男が右手を差し出してくる。

「はい、この度は、ご招待いただきありがとうございます。申し遅れました、私、父の代わりに参りました。東西辰美です」


なぜ自分に喋りかけてきたのかは分からないが、とりあえず印象を悪く持たれないように当たり障りのない自己紹介をしていると、大輔の視線がまるで、辰美を品定めするかのように上から下に動いた。

「ああ、東西さんの息子さんか」


正直、そういう風に見られるとあまり気分が良くない。

(挨拶も終わらしたし、適当に話に区切りをつけて帰ろう)

心中ではそう思いながら、作り笑いを顔に貼り付け、適当に世間話を頷きながら聞く。

しかし、大した接点がある訳でもないのですぐに話題が尽きた。

頃合を見計らって、「では、また」と去ろうとした時、大輔にいきなり腕を掴まれる。


「ちょっと待って……、君、茶道か何かやってた?」


「はい?」


唐突な大輔の言葉に思わず、首を傾げる。


「いや、何ていうのかな……。男の僕が言うのもなんだけど、姿勢とか歩き方、それから仕草まで、洗練されて美しいから……、てっきりなにか習っていたのかと。
そういう教育は一体誰にされたんだい?」


「……母です」


食い気味に聞いてくる大輔に対して、辰美は若干引き気味で答えた。


(なんなんだ……?)


訝し気に大輔を見ると、腕を組んで俯いている。


そして、暫く何かを考えこむようにして独り言をブツブツと呟いた後、ようやく顔を上げた。


「いきなりで悪いんだが、一つ君に頼みごとをしたいんだ。いいかな」

「……な、何でしょうか?」


 この流れからくる頼まれごととは一体何なのか?

 全く想像できないが、どうか、めんどくさい事ではありませんようにと辰美は切に願った。

「どうか、私の娘の講師になってくれないか? 恥ずかしながら、もう十三にもなるんだが教育が十分にできていなくてね。これから人前に出る機会も増えてくる。その時に恥をかかない様、君に礼儀作法を教え込んでもらいたいんだよ」

 これはまた、予想外の要望であった。
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