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第一章
第22話
しおりを挟む「いきなり居なくなったから心配したよ。ほら、帰ろ」
辰美は玲子の前に手を差し出す。
「どうしてここが……」
玲子はカバンを握りしめて後ずさりした。
「まあ、お嬢の考える事なんて手に取るようにわかるんだよ」
辰美は玲子を小馬鹿にするように鼻で笑い、後ろに下がる玲子の手を掴み、無理やり歩みを進めた。
「いやだ……」
どんなに足を踏ん張っても、引きずられて行く。
搭乗口から遠のいて行くにつれ、自由からも遠のいて行くような気がした。
ここまで逃げてきたのに、またあの場所に戻るのか。
しかし、どんなに腕を引っ張っても辰美は、玲子を離すことはない。
それどころか、痛いぐらいに玲子の腕を握りしめていた。
ターミナルの外には、リムジンが停まっていた。
「やだ! やだぁっ」
辰美が暴れる玲子をなだめながら車に押し入れる。
その時だった。
「玲子ちゃん!」
一郎が、大きなリュックサックを背負って立っていた。
急いで来たのだろう、息が荒く、Tシャツが前後反対だ。
ずり落ちたメガネをかけ直し、一郎が走ってくる。
辰美の手を一郎が掴んだ。
「玲子ちゃんから離れろ」
玲子は、今まででこんなに感情をあわらにする一郎を見たことがなかった。
「あぁ、一郎くん。いいところに来てくれた、君とも少し話がしたいと思ってたんだ」
辰美が不気味に微笑み、一郎の手を払う。
その瞬間、玲子は辰美の後ろ控えていた執事に捕らえられ、車に乗せられた。
ドアを開けようともがいても開かず、玲子には辰美と一郎の会話が聞こえない。
「いいか、1回しか言わない。両親の経営してる会社を守りたいなら黙って車に乗れ」
辰美の恐ろしく冷たい声に一郎はゴクリと唾を飲み込んだ。
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