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第一章
第20話
しおりを挟む玲子は一郎のアパートを出て走った。
顔を見られないように深くフードをかぶり、なるべく目立たないように裏道を使い、最短ルートで自分のアパートを目指した。
「はぁ……はぁ……、着いた」
息を整えながら震える手で、鍵を差し込みドアを開ける。
部屋に入った途端、足の力が抜け床に座り込んだ。
「帰ってこれたんだ……」
屋敷とは比べられないほど狭い部屋だ。
キッチンは小さいし、ベットもシングルベッド。
設備も大して良くない。
そんなこの部屋で玲子は過ごしてきた。
思い出が沢山詰まっている。
一郎と一緒に料理をしたり、テレビを見て笑いあったり。
窓から眩しいほどの日差しが差し込んだこの部屋は、とても温かく感じた。
けれど、もうこの部屋では過ごすことは出来ない。
今までの幸せな生活も、もう送ることは出来ない。
全て辰美によって壊されてしまったのだ。
だけど、もうここまでだ。
憎しみで頭をいっぱいにするのはやめよう。
いつまでも同じことを考えていても、現状は一切変わらないのだから。
また新しい場所で、新しい思い出を作ればいいのだ。
「よし」
玲子は、息を吸い込み体に力を入れて立ち上がった。
とりあえず必要最低限のものをカバンに入れ込む。
貯金箱に入ったお金、パスポート、下着。
最後に、一郎と一緒に買ったペアリングを指にはめてカバンを閉めた。
靴の紐を結び直し、時計を見れば2時半。
出発まであと1時間ある。
空港までタクシーで向かえば余裕で間に合うだろう。
一郎が空港に来てくれることを願い、玲子はまた、フードを深く被り直して、玄関のドアを開けた。
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