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第一章
第19話
しおりを挟む「……玲子ちゃんは僕の彼女だ。僕が守る」
玲子を抱きしめながら一郎は呟いた。
一郎に抱きしめられるだけで、すっと身体の力が抜けるような気がした。
辰美とは違う、温かみのある手だ。
「辰美さんと僕が直接話してくるよ」
「そ、それはダメ!」
気合を入れて立ち上がった一郎を玲子がすぐさま止めた。
「どうして?おかしいじゃないか、こんな話」
「そうなんだけど……。話し合いでどうこうできる相手じゃないっていうか……、人が嫌がることを笑ってやる悪魔みたいな奴なの。だから、一郎は絶対辰美に会ったらダメ」
会ったら最後。辰美は玲子と体の関係があることを、一郎に話すはずだ。
それは、なんとしてでも阻止したかった。
「だったら、どうするつもりなの?」
一郎が玲子の肩を強く掴む。
「辰美の手の届かない所へ、見つからない場所へ行くしかない」
「見つからない場所って、どこか宛はあるの?」
玲子はゆっくりと頷いた。そして、ひと呼吸おいて一郎を見る。
「私、日本を出ようと思う」
「え?」
一郎が目を丸くする。
「お母さんがね、西園寺家には内緒で、イギリスに一つだけ屋敷を所有してたの。お父さんと喧嘩した時とか、たまにそこを使ってたらしくて。私もお母さんが亡くなる少し前に教えてもらったんだけど、そこなら辰美が調べても絶対に分からないはずだわ」
玲子は一郎の袖をつかみ見上げた。
「私、一郎とならどこでも生きていける気がするの。慣れない土地でも二人で一生懸命働いて、贅沢じゃないかもしれないけど、温かい暮らしが出来たらいいなって……。一緒に来て欲しい」
「……でも、イギリスって。そんなにいきなり……」
一郎は頭をかいた。
「分かってる。だから、後は一郎の判断に任せるよ。これ、チケット」
玲子は一郎の手にチケットを押し付けた。
「羽田空港に3時半。来る気がなかったら捨てて」
そう言って踵を返す玲子の手を一郎が慌てて掴んだ。
「ちょっと待って、玲子ちゃん」
「アパートに帰って早く準備しなきゃ。もう、追っ手がそこまで来てるかもしれない」
玲子は一郎に掴まれた手をはらって、部屋を出た。
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