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第一章
第18話
しおりを挟む伊藤の協力で、何とか部屋から脱出した玲子は、真っ先に一郎の元へと向かった。
今日は火曜日。大学の授業はないから家にいるはずだ。玲子と一郎はカリキュラムを合わせ、毎週この日は、家で過ごしたり、デートしたりしていた。
そんなに時間は経っていないはずなのに、なんだかすごく昔の懐かしい思い出に感じる。
大学から徒歩10分の、三上アパート2階、201号室が一郎の部屋だ。
玲子はドアの前に立ち、深呼吸してインターフォンを押した。
中から「はぁい」と間抜けな声が聞こえ、ドアが開く。
「一郎!」
玲子は一郎に抱きついた。
「一郎……、いち、ろう……」
涙が溢れる。
目の前に、会いたいと願い続けた一郎がいる。
それがどんなに幸せなことか。
「どうしたの……玲子ちゃん。突然、大学辞めちゃって、みんな心配してたんだよ……」
一郎は、目を丸くして玲子の顔を見た。
「……うん、ごめんね」
ダメだ。今は泣いてる場合じゃない。
きっと、もう既に追っ手が来ているはずだろう。
一刻も早く伝えなければ。
玲子は涙を拭って、一郎を見上げた。
「一郎、私と一生に逃げて」
「え?」
「お願い!」
一郎は、眉毛を八の字にして頭をかいた。
「……ちょっと、落ち着いて。逃げるって何から?」
玲子は言葉を詰まらせた。
(辰美から)
喉まで出かかっている言葉を飲み込む。
なんて説明すればいいのか、どこから話したらいいのか分からない。
すると、一郎は黙り込む玲子の肩に手を置いて、視線を合わせた。
「僕ってそんなに頼りない?」
玲子はゆっくりと首を横に振る。
「だったら、力にならせて。何かあったら、腹を割って話す。僕たち二人で決めたルール忘れたの?」
一郎は玲子の背中をさすりながらゆっくりと促した。
「わたし……」
それから、玲子は一郎に今までの事を打ち明けた。
自分が西園寺グループの人間であること。
辰美との結婚話が出ていること。
無理やり大学を辞めさせられたこと。
しかし、どうしても辰美と体を重ねたことだけは話せなかった。
それを言ってしまえば、一郎が離れていく気がして怖かったのだ。
「一郎の家族の事も……、もっとちゃんと考えなきゃいけないのに、私……自分のことばっかり考えて……。汚いよね」
玲子は涙を流しながら一郎の顔を見つめる。
一郎は玲子を強く抱きしめた。
「そんなことないよ……」
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