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第一章
第17話
しおりを挟む「辰美様……、申し訳ありません。玲子様がいなくなりました……」
辰美の元に連絡が入ったのは、昼の1時を過ぎた頃だった。
大輔の残した大量の仕事の引き継ぎに追われている辰美は、資料に目を通しながら、顎と肩で電話を固定して尋ねる。
「どうして?お嬢はあの部屋からはでれないはずだ」
「そうなのですが……、どこにもおられません……」
「伊藤はどうしてる」
「それが、伊藤の姿も見当たらず……」
(二人一緒に姿を消したのか……)
「変だな。部屋の外の監視カメラにはどう映ってる?」
玲子の部屋にはプライバシーの面を考慮して、監視カメラは設置されていないが、部屋を出たところに2箇所、設置されてある。
「確認したのですが、その2つのカメラだけ電源が落とされておりまして……」
(偶然にしては出来すぎだ。それに、お嬢は監視カメラの電源の位置なんて知らないだろうし。確実に協力した者がいるな)
辰美は資料から目を離し顔を上げた。
「まぁいい。とりあえず、お嬢が向かうとしたら、一郎君の所だろうから大学近辺を探してみてくれ。俺も今日の仕事が片付いたら合流する」
「は、はい!直ぐに人員を派遣します」
気合いの入った声が電話の向こうで聞こえ、通話が切れる。その瞬間、ノックもなく扉が開いた。
「おーい、辰美。資料できたぞ」
「ノックしろよ」
辰美が呆れ顔で言うと、男は豪快に笑い、右手に持っている茶封筒を机の上に置いた。
この男は辰美の幼馴染みで、秘書の長谷川 アキラである。
辰美と同じく長身で、凛々しい眉毛に男らしく逞しい鼻梁。髪の毛をワックスで七三に固めたスーツが似合う男だ。
「何にやけてんだ? 」
辰美の顔を覗き込むようにして、長谷川が尋ねる。
「ニヤけてるか、俺」
辰美は少し驚いて、頬を触った。
「さては、玲子お嬢様の事だな?」
長谷川はからかうように笑う。
「お熱いことで。しかし、俺はてっきり、玲子お嬢様はお前のこと嫌ってるのかと思ってたよ。上手くいってんだな、同棲生活」
「まあまあかな。退屈はしない」
辰美は茶封筒の中身を確認しながら微笑する。
「アキラ。ちょっと頼みたいことがあるんだけど、いいか?」
「なんだ、めんどくさいことなら断る」
長谷川が眉間に皺を寄せる。
「まあ、そう言わずにさ」
辰美は、椅子から立ち上がり長谷川の肩を叩いた。
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