上 下
17 / 72
第一章

第15話

しおりを挟む



「いらないから、下げて」

「そうは言いましても、お嬢様……。お昼も一口も召し上がらなかったではありませんか」

あれから玲子は食欲が全くわかなかった。

どんなに豪勢な料理を並べられても、自分の好物を並べられても、手をつけようとすら思わない。

第1に、辰美に用意されたものだというのが気に入らなかった。

「一口だけでも……」

伊藤が遠慮がちに料理を玲子に近ずけた時、辰美がドアから姿を現した。

会社から帰ってきたばかりなのだろう。辰美はネクタイを緩めながら伊藤に聞いた。

「なに、どうしたの?」

「あ、辰美様、お帰りなさいませ。それが……、お嬢様が昼食から何もお食べにならなくて」

「ふーん、なるほど」

玲子は辰美が姿を現した途端、椅子から立ち上がり辰美との距離をとった。

「どうして食べないの?」

辰美は、逃げ惑う玲子をいとも簡単に捕まえて問いただす。

「いらないから」

玲子は辰美を睨みあげた。

「その様子だと体調が悪いわけでも無さそうだね。いいよ、伊藤。俺が食べさせるから」

「では、私はこれで……」

後ろに下がった伊藤を、辰美が手で制した。

「いや、そこにいて」

「え?」

「それと、そのひも貸して」

辰美は伊藤の腰に巻き付けているリボンを指さした。

「早く」

伊藤は、戸惑いながらリボンを解き辰美に渡す。

辰美は暴れる玲子を椅子に座らして、そのひもで玲子の腕を縛り椅子に固定した。

「なんのつもり」

「まずは、水か」

辰美は玲子の問いには答えず、玲子の口元に水の入ったコップを近ずけた。

玲子は顔を横にそらす。

「仕方ないな」

辰美はため息を着いて、水を口に含み玲子の顎を掴んで口ずけた。

「んっ!」

玲子の口内に水が流れ込んでくる。

辰美と玲子のやり取りを困惑した様子で眺めていた伊藤は、顔を背けた。

「やめてよ……」

玲子は拘束された腕を必死に動かした。だが、キツく縛られている手元をいくら動かしても手首が擦り切れるだけであった。

「次は、スープにする?」

辰美は湯気のあがったトマトスープをスプーンですくい、再び玲子の口元に近ずけた。

「飲んで」

羞恥が激しくこみ上げる。

こんな恥ずかしいことを伊藤に見られている。

伊藤は顔を俯かせて、どうすることも出来ずソワソワしていた。

「……自分で食べるから」

辰美は首を横に振る。

「だったら、せめて、伊藤をどこかにいかせて……」

玲子は頬を赤く染め、俯いた。

辰美は玲子の顔をしばらく眺め満足そうに笑って言った。

「分かった、君はもう下がっていいよ」

伊藤は顔を真っ赤にさせて、そそくさとカートを持って出ていった。

伊藤が出ていった後、辰美はまた玲子にスープを強引に飲ませた。

「なんか、俺も楽しくなっちゃった」

辰美は笑いながらパンを1口サイズにちぎり、玲子の前に差し出した。

「最低」そう目で訴えると、辰美は首を傾げる。

「また、伊藤を呼ぼうか」

玲子は辰美から差し出されたパンを大人しく食べた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。 地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。 ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。 イラスト提供 千里さま

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~

けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。 ただ… トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。 誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。 いや…もう女子と言える年齢ではない。 キラキラドキドキした恋愛はしたい… 結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。 最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。 彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して… そんな人が、 『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』 だなんて、私を指名してくれて… そして… スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、 『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』 って、誘われた… いったい私に何が起こっているの? パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子… たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。 誰かを思いっきり好きになって… 甘えてみても…いいですか? ※after story別作品で公開中(同じタイトル)

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

逃げられるものならお好きにどうぞ。

小花衣いろは
恋愛
「俺、お姉さんのこと気にいっちゃった」 声を掛けてきたのは、不思議な雰囲気を纏った綺麗な顔をした男の子。 常識人かと思いきや――色々と拗らせた愛の重たすぎる男の子に、気に入られちゃったみたいです。 「黒瀬くんと一緒にいたら私、このまま堕落したダメ人間になっちゃいそう」 「それもいいね。もう俺なしじゃ生きていけない身体になってくれたら本望なんだけどな」 「……それはちょっと怖いから、却下で」 「ふっ、残念」 (謎が多い)愛情激重拗らせ男子×(自分に自信がない)素直になれないお姉さん ――まぁ俺も、逃す気なんて更々ないけどね。 ※別サイトで更新中の作品です。 2024.09.23~ こちらでは更新停止していましたが、ゆるゆると再開します。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

処理中です...