傲慢令嬢、冷徹悪魔にいつの間にか愛されて縛られてました

萩の椿

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第一章

第14話

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それから玲子は1週間、部屋に監禁されていた。

ただ寝て、用意された料理を食べて、辰美に抱かれるという、人間の3大欲求を全てクリアした毎日。

玲子が反抗の態度を見せようものなら、辰美は玲子の大切に思う人間の名前を出して脅した。

一郎の名前が出ると玲子は辰美に逆らうことができなかった。

逃げ場のない、陽の光が当たらない牢屋のような部屋は玲子の気力を奪っていった。






「結婚式が2ヶ月後の6月に決まったよ」

朝、辰美がいつものように鏡の前でネクタイを締めながら言った。

玲子はベッドの上に寝転んだまま、未だに起き上がれないでいる。

連日、終わりがなく遠慮のない辰美との営みに、玲子は疲れ果てていた。

もう、声も枯れている。

「今週末、ウェディングドレスの試着しに行こうか」

辰美の言葉は玲子には届かない。

焦点の合わない目で天井をしばらく見上げた玲子は、そっと眠りについた。





2時間後、起床した玲子は朝食をとっていた。

「お味はいかがですか?」

伊藤がティーカップにお茶を注ぎながら朗らかな声で尋ねる。

この一週間、辰美以外に会う人間は、メイドの伊藤だけであった。

伊藤の明るい性格は、この絶望的な状況に閉じこめられた玲子を少しだが元気づけ、玲子は伊藤に気を許しつつあった。

「うん……美味しい」

「良かったです、実はこれ、辰美様が考えられたメニューなんですよ。お嬢様にお子様が出来やすいよう、ビタミンやミネラルを毎日とって欲しいって」

「……え」

玲子はパンをかじりながら、呆気に取られた。


「お嬢様が羨ましいです!  辰美様って本当にお優しい方ですよね」

伊藤の声がどんどん遠のいていく。

自分は何を呑気に、食事なんてしていたのだろう?

辰美の思惑にどっぷりはまっていたというのに……。

途端に、目の前の料理が何か気味の悪い物体のように見えてしまう。

「こんな食事いらない!」


玲子は机を押しのけて椅子から立ち上がった。その反動で、フルーツを盛り付けてあるお皿が机から滑り落ちて割れた。

「どうかされましたか……?」

伊藤はお皿の破片を集めながら、玲子の顔を見上げた。

「……辰美は優しくなんかない」

「え?」

「辰美は毎晩、私を無理やり抱く……。やめてって言っても、どんなに逃げても、力じゃかなわない。今日も夜になったら辰美が帰ってくる……。そしたらまた……」


誰に話すわけでもなく玲子はただブツブツと呟き、自分を抱きしめるように体を丸めて震えていた。

「あの、お嬢様……少し、お休みになった方が……」

ただ事ではないと感じた伊藤は、ベッドに寝かせようと玲子の肩に触れた。

「やめてっ!」

途端に玲子は伊藤の手を強くはじいた。

伊藤の手が、辰美と重なって見えたのだ。

いつも自分を強引に犯すあの手に……。

「……ご、ごめんなさい」

「いいえ、申し訳ありません。私も出過ぎた真似を」

伊藤は玲子から離れ頭を下げた。


「で、では私は破片を片付けてきますので、お嬢様はお休みになってください」

伊藤はそう言って、そそくさとその場から離れて机の下に散らばってある破片を拾い集め始めた。








伊藤が破片を集め終わり、掃除機をかけている。

ジャリジャリと破片を吸い込む音が聞こえて、暫くして掃除機の音がやんだ。


「ねぇ、ここから出してくれない? 」

だらんとベットに寝転がり、顔だけは伊藤の方を向けて玲子が言った。


「え......?」

伊藤が困惑した顔つきで顔を上げる。

「お願い」

藁にもすがる思いだった。

ここを出るには、あの指紋を登録した人物しか開けることが出来ないドアを開けなければいけない。

それができるのは玲子が知る限り、辰美と伊藤だけだ。

伊藤をもし、説得することが出来たなら……。

一縷の望みをたよりに、玲子は伊藤に懇願した。

しかし、伊藤は首を横に振る。

「申し訳ありません。私にはできません」

あっさりと頼みの綱は切れる。

それもそうだ、伊藤は雇われ人。主の命令に背くことは絶対にしないだろう。

考えてみれば、元々望みも薄かった。

「そう」

玲子は伊藤から視線を外してゆっくりと目を閉じた。




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