15 / 72
第一章
第13話
しおりを挟む「大学にまで来ないでよ!」
校門から出て、少し歩いた所にリムジンが止まっていた。玲子は立ち止まり辰美に向かって叫ぶ。
「だって、俺が迎えにこなかったら絶対帰ってこなかったでしょ。それより人目に付く」
周りを見渡せば、ちらほらと道を歩く人達がこちらを怪訝そうに見ている。
喧嘩しているように見えるのだろう、2人組の女性が口元を手で隠してヒソヒソと話していた。
辰美が車のドアを開ける。
乗ったら、またあの場所に戻される。嫌でも蘇ってくる昨日の記憶に玲子の足は動かなかった。
「そういえば、一郎君のご両親の会社、小さな町工場なんだってね」
玲子の様子を見兼ねて、辰美がため息をつきながら言った。
「……だから何?」
「気をつけて。お嬢一人の行動で何人もの人生が左右されるんだ。俺が言いたいこと分からない程、鈍感でもないよね?」
一瞬考えた後に血の気が引いていく。
つまり、私がここで従わなかったら一郎の会社の経営にちょっかいを出すってこと?
全く関係のない、一郎のことを巻き込むなんてどうかしている。
どうして、そんなことが平気で言えるのか玲子には理解できなかった。
一郎の両親には何度か玲子も会ったことがある。
2人は一郎のように優しく、笑顔で玲子を迎え入れてくれた。一郎の家庭は玲子の居場所のひとつでもあったのだ。
迷惑……かけてしまうのだろうか?
辰美なら、一郎の両親の会社が潰れてもきっと何も思わないだろう。
これ以上この男に自分のテリトリーに踏み込んで欲しくない。壊されたくない。
それなら、自分が傷ついた方がよっぽどましじゃないか。
「最低な人」
玲子は吐き捨てるように言った。
車は玲子たちを乗せて走り出した。
向かい合わせに座る辰美を、極力視界に入れないように玲子は頬ずえをついて窓外を眺める。
大学生だろうか?玲子と歳が同じくらいの若いカップルが手を繋いで歩いている。
幸せそう
自分と一郎も傍からはあんな風に見えていたのだろうか。
そんなことを考えていた時、辰美が口を開いた。
「さっき大学に退学届けを出してきた」
「……は?」
玲子は辰美に視線を移す。
「大学も、一郎君に会えるのも今日が最後だったんだ」
「ちょっと待ってよ、今日が最後って……」
動揺する玲子をよそに辰美は淡々と言葉を続ける。
「明日からは、俺たちの屋敷で過ごしてもらう」
「ねぇ、どうしてそんな勝手な事するの?!」
限界を迎えた玲子は、目の前に座る辰美に飛びかかった。
「アンタ、他人の幸せを、生活を壊して本当になんとも思わないの?!」
辰美のワイシャツの襟首を掴み、玲子は怒りをぶつける。
3年間、頑張ってきた大学を一方的に辞めさせられた。一郎と過ごしてきた大学生活を他人に踏みにじられた気持ちだった。
「俺は欲しいものが手に入るんだったら、なんだってする人間だよ」
辰美は悪びれた様子もない。
玲子の顔をそのあまりにも冷ややかな目で見つめ、手を払い除ける。
「恨まれる覚悟は出来てる」
玲子は1歩、また1歩と後ずさりした。
辰美のこの顔、本当に苦手だ。
本心が見えなくて、そこはかとなく冷たく感じる。タチが悪い。
玲子は辰美から離れて元の席へ座った。
「玲子様、申し訳ありませんが、シートベルトをお締めください」
後部座席の様子をミラー越しに見ていた運転手が隙を見て声をかける。
屋敷に着くまでの約1時間の間、車内の重苦しい沈黙の中に玲子の嗚咽だけが響いていた。
0
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
お酒の席でナンパした相手がまさかの婚約者でした 〜政略結婚のはずだけど、めちゃくちゃ溺愛されてます〜
Adria
恋愛
イタリアに留学し、そのまま就職して楽しい生活を送っていた私は、父からの婚約者を紹介するから帰国しろという言葉を無視し、友人と楽しくお酒を飲んでいた。けれど、そのお酒の場で出会った人はその婚約者で――しかも私を初恋だと言う。
結婚する気のない私と、私を好きすぎて追いかけてきたストーカー気味な彼。
ひょんなことから一緒にイタリアの各地を巡りながら、彼は私が幼少期から抱えていたものを解決してくれた。
気がついた時にはかけがえのない人になっていて――
表紙絵/灰田様
《エブリスタとムーンにも投稿しています》

溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる