傲慢令嬢、冷徹悪魔にいつの間にか愛されて縛られてました

萩の椿

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第一章

第13話

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「大学にまで来ないでよ!」

校門から出て、少し歩いた所にリムジンが止まっていた。玲子は立ち止まり辰美に向かって叫ぶ。

「だって、俺が迎えにこなかったら絶対帰ってこなかったでしょ。それより人目に付く」

周りを見渡せば、ちらほらと道を歩く人達がこちらを怪訝そうに見ている。

喧嘩しているように見えるのだろう、2人組の女性が口元を手で隠してヒソヒソと話していた。

辰美が車のドアを開ける。

乗ったら、またあの場所に戻される。嫌でも蘇ってくる昨日の記憶に玲子の足は動かなかった。

「そういえば、一郎君のご両親の会社、小さな町工場なんだってね」

玲子の様子を見兼ねて、辰美がため息をつきながら言った。

「……だから何?」

「気をつけて。お嬢一人の行動で何人もの人生が左右されるんだ。俺が言いたいこと分からない程、鈍感でもないよね?」


一瞬考えた後に血の気が引いていく。

つまり、私がここで従わなかったら一郎の会社の経営にちょっかいを出すってこと?

全く関係のない、一郎のことを巻き込むなんてどうかしている。

どうして、そんなことが平気で言えるのか玲子には理解できなかった。




一郎の両親には何度か玲子も会ったことがある。

2人は一郎のように優しく、笑顔で玲子を迎え入れてくれた。一郎の家庭は玲子の居場所のひとつでもあったのだ。

迷惑……かけてしまうのだろうか?

辰美なら、一郎の両親の会社が潰れてもきっと何も思わないだろう。

これ以上この男に自分のテリトリーに踏み込んで欲しくない。壊されたくない。

それなら、自分が傷ついた方がよっぽどましじゃないか。

「最低な人」

玲子は吐き捨てるように言った。



車は玲子たちを乗せて走り出した。

向かい合わせに座る辰美を、極力視界に入れないように玲子は頬ずえをついて窓外を眺める。

大学生だろうか?玲子と歳が同じくらいの若いカップルが手を繋いで歩いている。

幸せそう

自分と一郎も傍からはあんな風に見えていたのだろうか。

そんなことを考えていた時、辰美が口を開いた。


「さっき大学に退学届けを出してきた」

「……は?」

玲子は辰美に視線を移す。

「大学も、一郎君に会えるのも今日が最後だったんだ」

「ちょっと待ってよ、今日が最後って……」

動揺する玲子をよそに辰美は淡々と言葉を続ける。

「明日からは、俺たちの屋敷で過ごしてもらう」

「ねぇ、どうしてそんな勝手な事するの?!」

限界を迎えた玲子は、目の前に座る辰美に飛びかかった。

「アンタ、他人の幸せを、生活を壊して本当になんとも思わないの?!」

辰美のワイシャツの襟首を掴み、玲子は怒りをぶつける。

3年間、頑張ってきた大学を一方的に辞めさせられた。一郎と過ごしてきた大学生活を他人に踏みにじられた気持ちだった。

「俺は欲しいものが手に入るんだったら、なんだってする人間だよ」

辰美は悪びれた様子もない。
玲子の顔をそのあまりにも冷ややかな目で見つめ、手を払い除ける。

「恨まれる覚悟は出来てる」

玲子は1歩、また1歩と後ずさりした。

辰美のこの顔、本当に苦手だ。
本心が見えなくて、そこはかとなく冷たく感じる。タチが悪い。

玲子は辰美から離れて元の席へ座った。

「玲子様、申し訳ありませんが、シートベルトをお締めください」

後部座席の様子をミラー越しに見ていた運転手が隙を見て声をかける。

屋敷に着くまでの約1時間の間、車内の重苦しい沈黙の中に玲子の嗚咽だけが響いていた。
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