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第一章
第10話 次の日
しおりを挟む「ん……」
目を覚ますと、ベッドの中には玲子1人だった。窓ひとつないその部屋は、朝か夜かも分からない。
けれど微かに小鳥の鳴き声が聞こえる。
重い体を起こすと嫌でも蘇ってくる記憶。
私は辰美と ———。
汗まみれな体も、濡れている秘部も全てが気持ち悪い。
とりあえず、体を洗いたい。
このままでいたくない。
玲子は薄いシーツを体にまきつけてベッドから降り、辰美がいないか慎重に確認しながら洗面台へと向かった。
「なによこれ……」
玲子は鏡に映る自分の姿に唖然とする。
首筋からお腹にかけて無数の赤い点が浮かんでいた。その場所に触れると微かに痛みも走る。
「ふざけんな……」
玲子はシーツを脱ぎ捨て、シャワールームへと駆け込んだ。
栓をひねり頭から冷水を浴びる。
体が冷えていく感覚も何も感じない。
ただ、手のひらで強く体を擦った。
汚れも何もかも全部落ちるように———。
「起きたの」
遠くに手放していた意識が、辰美の声によって呼び戻される。
腕を組み、壁にもたれかかる辰美は、白シャツに紺色のネクタイを身につけている。
玲子は辰美の方を振り向かず、ただひたすらに体を洗う。
「そんな冷水浴びてたら、風邪ひくよ」
辰美が白シャツの腕をまくって、シャワーの栓をしめた。微かに辰美の髪の毛に水がかかる。
パシッ
「最低よ、アンタ」
玲子は辰美の頬を叩き、脱ぎ捨てたシーツを身にまといシャワールームから出た。
震える玲子の体を暖房のぬるい風が温めていく。
昨日の出来事を思い出してしまう、乱れたベッドに背を向けるようにして、部屋の角に座りこむ。
しばらくして、タオルで髪の毛を拭きながら辰美が出てきた。
「消えて、お願いだから」
玲子は冷めた声で言った。
辰美は玲子に近づき、しゃがんで視線を合わせた。
「何で?昨日のこと思い出すから?」
玲子は無言で辰美を睨みつける。
「昨日はあんなに可愛かったのに。ぁン…だめ、辰美とかいって乱れまくって」
辰美がわざとらしく声のトーンを上げる。
言い返せない悔しさ、昨日の自分の失態、色々な感情が混ざりあい、玲子の頬に一筋の涙がつたう。
辰美は玲子の頭を優しく撫でて微笑む。
「ちょっと意地悪しすぎたね」
そして、立ち上がり、鏡を見ながらネクタイをしめる。シワがなく光沢のあるスーツに身を包む辰美は、皆が見惚れるほどだろう。
しかし、そんな辰美の姿も玲子には映らない。
憎しみのこもった目で、辰美を睨みつける。
「あ、そうだ。ご飯できてるみたいだよ」
「……」
「もう少しで、メイドが運んでくる。俺はこれから会社に行くから、ゆっくり食べるといい」
辰美はそう言って、鼻歌を歌いながら部屋を出ていった。
「……もういや……」
体の力がどっと抜ける気がした。
辰美を目の前にした時、体の震えが止まらなかった。言い返してやりたいのに、怖くて口が動かない。何だか自分がとても情けなく思えた。
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