傲慢令嬢、冷徹悪魔にいつの間にか愛されて縛られてました

萩の椿

文字の大きさ
上 下
7 / 72
第一章

第5話 拉致

しおりを挟む


「ちょっと待ってよ、お嬢」

後ろから聞こえる陽気な声を無視して、玲子は廊下を歩き続けた。

「お嬢、待ってって」

駆け足で追いついた辰美が玲子の手首を掴み振り向かせる。

「離して」

玲子は辰美の顔を睨みつけた。

決して背が低い訳では無いのだが180cmの辰美の前では顔を見上げる形になってしまう。

「辛い気持ちは分かるよ」

「嘘つかないで!あんたに分かるわけない。それに、なんでこんな話受けてんのよ。私の事好きでもないくせに!」

「好きだよ」

辰美は玲子の顔を見つめたまま、表情を変えずに答えた。本心なのか、はたまた嘘なのか。全く分からない。

しかし、こういう事に耐性のない玲子は気恥ずかしくなって辰美の手を振りほどこうともがいた。

ところが、辰美は玲子の手首を強く掴む。それはもう痛いほどに。

そして、玲子の手を引いて逆方向に歩き出した。

「ちょっと、辰美!離してよ!」

玲子の足元がふらつく。咄嗟に、幸之助の元へと連れ戻されるのだと思った。

「嫌!」

立ち止まろうと必死に足に力を入れても男の力の前では無力に近い。

しかし、辰美は玲子の手首を握ったまま、廊下を直進し、突き当たりを幸之助の部屋とは反対の左側に曲がった。

「どこ行くつもりなの!腕が痛いわ!ちょっと辰美聞いて———」

その瞬間、辰美がいきなり立ち止まって玲子の唇を奪った。

お互いの唇が触れ合うだけの軽いキス。

直ぐに唇は離れた。

「何.........してるの」

「何って、もしかしてお嬢。初めてだった?」

辰美は、玲子を見下ろしながら意地悪く笑った。

「そんな訳ないでしょ?なんでこんな事するのかって聞いてるのよ!」

「俺たちこれから夫婦になるんだから、このくらいのスキンシップ当たり前でしょ」

「どうかしてるわ!私、付き合ってる人いるって言ったわよね?」

玲子は頬を真っ赤にして辰美を突き飛ばし、片手を振りあげた。ところが、いとも簡単に辰美によって止められてしまう。

そして、玲子の表情を観察するように目線を外さず手の甲に音を立ててキスを落とした。

「俺、結構上手いと思うよ」

妖美な視線を玲子に向けながら辰美が言った。その視線から玲子は「何が」とまでは聞かなくとも辰美が言いたいことが分かった。

けれど、玲子は何も言わなかった。辰美の余裕そうな表情を睨みあげ口をつむいでいると、辰美は軽く笑って再び玲子の手首を掴んで歩き出した。

しばらく歩くと玲子たちは外に出た。

広めの中庭に、外車が一台停まっている。

「お待ちしておりました」

1人、車のそばに立った黒服が辰美と玲子に向かって頭を下げた。 

「さぁ、乗って」

辰美が、黒服に運転席で待っているようにと指示を出して、助手席のドアを開ける。

「どこに連れていくつもり?」

「それは行ってからのお楽しみ」

玲子は首を横に振る。

「嫌よ」

玲子の心は疲弊していた。早く家に帰りたいその一心だった。

すると、辰美は開けた扉のドアに手を乗せて首を傾げる。

「どっちがいい?このまま抵抗して乱暴に乗せられるか、素直に俺の言うこと聞くか」

玲子は目を丸くした。

玲子は辰美に今までこんな風に口を利かれたことがなかった。

確かに馴れ馴れしく、歳も辰美の方が上だが、辰美の会社、東西グループが西園寺グループの傘下に入っている以上、二人の間には主従関係があった。


なのに、今ではまるでそれがひっくり返ったような態度ではないか。

「口の利き方に気をつけなさい、辰美」

玲子は憤慨した。

けれど、辰美は気にした様子もなく、

「仕方ないか」

と、ため息混じりにつぶやいただけだった。
辰美が玲子との距離を容赦なく縮める。

一見、朗らかな表情に見えるが目は笑っていない。
 
辰美がたまに見せる、玲子の嫌いな表情だ。

嫌な雰囲気を感じとった玲子は後ずさりしたが、辰美によって阻まれる。

「っちょっと!」
そして、辰美は両腕を後ろで拘束し、暴れる玲子をなだめながら強引に後部座席に乗せた。

「出して!こんなの拉致じゃない!犯罪よ!おじい様が知ったらなんて言うか」

「そのおじい様が望んだことだとしたら?」

辰美は、口角を上げて玲子を見た。
「どういう意味.........?」

「出せ」

辰美は玲子の質問には答えなかった。
冷ややかな声が車内に響き、車が発車した。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?

キミノ
恋愛
 職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、 帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。  二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。  彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。  無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。 このまま、私は彼と生きていくんだ。 そう思っていた。 彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。 「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」  報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?  代わりでもいい。  それでも一緒にいられるなら。  そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。  Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。 ――――――――――――――― ページを捲ってみてください。 貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。 【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

お酒の席でナンパした相手がまさかの婚約者でした 〜政略結婚のはずだけど、めちゃくちゃ溺愛されてます〜

Adria
恋愛
イタリアに留学し、そのまま就職して楽しい生活を送っていた私は、父からの婚約者を紹介するから帰国しろという言葉を無視し、友人と楽しくお酒を飲んでいた。けれど、そのお酒の場で出会った人はその婚約者で――しかも私を初恋だと言う。 結婚する気のない私と、私を好きすぎて追いかけてきたストーカー気味な彼。 ひょんなことから一緒にイタリアの各地を巡りながら、彼は私が幼少期から抱えていたものを解決してくれた。 気がついた時にはかけがえのない人になっていて―― 表紙絵/灰田様 《エブリスタとムーンにも投稿しています》

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

処理中です...