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第一章
第2話 悲報
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玲子の頬に一筋の涙がつたった。
震える唇からは時々嗚咽が漏れ、体は小刻みに震えている。
とあるマンションの一室で玲子は携帯を握りしめながら、体を丸め絶望に打ちひしがれていた。
時は、2時間前に遡る。
一郎と食事を終えたあと、講義をひとつ受けて帰宅した玲子は夕食の準備に取り掛かっていた。
ガスコンロに火をつけて、鍋に油をひき、包丁で、人参、玉ねぎ、じゃがいもを切る。今日はカレーの予定だ。
「痛!」
一瞬、鋭い痛みが、玲子の人差し指を襲った。
見ると、一筋の傷が入りそこから血が流れていた。
「またやっちゃったよ」
玲子はため息をついて、台所を離れた。
玲子は、一郎と付き合うまで料理を作ったことがなかった。
それまでは、西園寺家の本邸で暮らしていたので、料理はメイドが作ってくれていたし、それを執事が運んでくれた。
しかし、一郎と付き合うようになってからは、玲子は本邸を出て、一人暮らしをするようになった。
というのも、玲子は西園寺家の一族ということを一郎に伝えていなかったので家に招待することが出来なかった。
しかし、大学だけでしか会うことが出来ないとなると、時間は限られる。
いい歳なのだから、家を出て一人暮らしをしてみようと思い立ち、両親の反対を押し切って、本邸とは比べ物にならないほど狭いマンションを借りて暮らしている。
収納タンスから、救急箱を取り出して絆創膏を人差し指にそっと巻くと同時に、スマホから着信音がなった。
表示を見ると、玲子の祖父、西園寺幸之助からであった。
「珍しい、おじい様からなんて」
玲子は、驚いて電話に出た。
「もしもし、おじい様?」
「ああ、玲子。よかった」
幸之助の声は随分、疲弊していた。それから、ひと呼吸おいて、幸之助は続けた。
「落ち着いて聞きなさい。さっき、警察から連絡が来たんだ。大輔とリコさんが事故にあったと」
玲子は息が詰まった。
大輔とリコとは玲子の両親だからだ。
「事故って、どういうこと」
玲子は、取り乱したくなる気持ちを抑えて、しかし、震える声で幸之助に聞いた。
「それで、2人は無事なの?」
電話の向こうで、ため息が聞こえた。
「残念ながら、亡くなったそうじゃ」
玲子はすぐさま電話を切った。
なんとも言えぬ、喪失感が玲子を襲い、体がまるで鉛のように重たく動かなくなった。
震える唇からは時々嗚咽が漏れ、体は小刻みに震えている。
とあるマンションの一室で玲子は携帯を握りしめながら、体を丸め絶望に打ちひしがれていた。
時は、2時間前に遡る。
一郎と食事を終えたあと、講義をひとつ受けて帰宅した玲子は夕食の準備に取り掛かっていた。
ガスコンロに火をつけて、鍋に油をひき、包丁で、人参、玉ねぎ、じゃがいもを切る。今日はカレーの予定だ。
「痛!」
一瞬、鋭い痛みが、玲子の人差し指を襲った。
見ると、一筋の傷が入りそこから血が流れていた。
「またやっちゃったよ」
玲子はため息をついて、台所を離れた。
玲子は、一郎と付き合うまで料理を作ったことがなかった。
それまでは、西園寺家の本邸で暮らしていたので、料理はメイドが作ってくれていたし、それを執事が運んでくれた。
しかし、一郎と付き合うようになってからは、玲子は本邸を出て、一人暮らしをするようになった。
というのも、玲子は西園寺家の一族ということを一郎に伝えていなかったので家に招待することが出来なかった。
しかし、大学だけでしか会うことが出来ないとなると、時間は限られる。
いい歳なのだから、家を出て一人暮らしをしてみようと思い立ち、両親の反対を押し切って、本邸とは比べ物にならないほど狭いマンションを借りて暮らしている。
収納タンスから、救急箱を取り出して絆創膏を人差し指にそっと巻くと同時に、スマホから着信音がなった。
表示を見ると、玲子の祖父、西園寺幸之助からであった。
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玲子は、驚いて電話に出た。
「もしもし、おじい様?」
「ああ、玲子。よかった」
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「落ち着いて聞きなさい。さっき、警察から連絡が来たんだ。大輔とリコさんが事故にあったと」
玲子は息が詰まった。
大輔とリコとは玲子の両親だからだ。
「事故って、どういうこと」
玲子は、取り乱したくなる気持ちを抑えて、しかし、震える声で幸之助に聞いた。
「それで、2人は無事なの?」
電話の向こうで、ため息が聞こえた。
「残念ながら、亡くなったそうじゃ」
玲子はすぐさま電話を切った。
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