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第3章(ダリル編)
第72話
しおりを挟むダリルが買い出しに出かけた頃、ミラノとダリルが研究を進めているオアシスに珍しい客人が訪れていた。
「これは……、ゼノ様。こんな所まで、一体どうされましたか?」
ミラノは現れた人物に驚き、急いで頭を下げた。
「ダリルさんが、ここにいると聞いて」
「はい、たった今ここを出られましたが……呼んできましょうか?」
「いいです。帰るまでここで待ちます」
ミラノはゼノをテントの中へと案内した。
「すみません、こんな小汚いところで……」
ゼノは不思議そうにテントの中を見渡している。
「ここで、ダリルさんと寝泊まりしているんですか?」
「えっ、ああ、はい。でも、寝泊まりと言っても交代で仮眠をとるので、一緒に寝るとかそんな感じでは……」
ダリルの夫であるゼノからすれば、自分のパートナーが他の男と一つ屋根の下で寝泊まりしているのは、許せないことだろうと思ったミラノは、すぐさま否定した。しかし、逆にそんな態度が怪しまれるかもしれないと、冷や汗をかく。
けれど、ゼノはただ「そうですか」と呟いただけだった。
「あの……何かあったのですか?」
そもそも国王であるゼノが、こんなところに来ること自体おかしいし、ここに来たダリルの様子も少しおかしかった。ミラノなりに何かを感じ取り聞いてみるとゼノは、少し眉根を寄せた。
「ダリルさんは城を出て行きました」
「出て行ったというのは……、いわゆる家出という事ですか?」
「そうです。俺の頬を殴り飛ばして」
「なぐっ!? また、どうしてそんなことに……」
「オアシスの水瓶が汚染されていることに、何も対策を立てていない俺に腹が立ったそうで。国民は家族同然だから、ほっとけないって」
怒り狂ってもおかしくない状況なのだが、ゼノの顔はどこか穏やかに見えた。ミラノはその理由をすぐに察することができた。
「まるでゼノ様の母君のようですね」
城に長く使えているミラノは、ゼノの母親の事を知っていた。ゼノの母親は心優しく、常に国民を気遣う強い女性だった。
「……ダリルさんは、不思議と母上と重なる事が多いんです。同じオメガという事もあるんでしょうけど、性格も少し似ている気がする。国民が家族だなんて、母上の他に言う人がいるんだって少し驚きました」
ゼノの母親は常に国民から頼りにされていたし、何よりも愛されていた。だから、ゼノの母親が若くして命を落としてしまった時は、国全体が悲しみに包まれた。それから数年、ブロン国の空気は変わってしまったのだ。以前は国民が協力し合ってできていたことも、国民の意見が分裂し合うことによって上手くいかなくなった。資源の低下も重なり、自分が生きていくために、人々は段々と相手を思いやる心を忘れていった。
「懐かしいですね。ゼノ様の母君はお綺麗な方でした」
ミラノ自身、ゼノの母親にはよくお世話になっていた。立場を気にせず誰でも平等に扱うゼノの母親をミラノは好いていた。しかし、ゼノの母親の死はあっけなかった。浮気をした夫(前ブロン国国王、ゼノの父親)と別れてからも、ゼノの母親は国民の為に奉仕活動を怠らなかった。浮気された悔しさや悲しさを紛らわすためか、それはもう忙しく動き回っていた。そのせいで疲労が溜まっていたのか、階段から足を滑らせて転落死。以来帰らぬ人となった。
「確かに、国民の為に自分を犠牲にしてしまう所は似ていらっしゃるかもしれません。二人ともお優しい方なのでしょう」
そう、ミラノがゼノに微笑んだ時、丁度ダリルがテントに帰ってきた。
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