転生した先では、僕の結婚式が行われていました。

萩の椿

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第3章(ダリル編)

第70話

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 オアシスの水瓶は、ブロン国の中心に位置している。城からはそこまで遠くなく、三十分足らずで到着した。


 緑や赤、黄色の色とりどりな植物が混ざり合うオアシスの中に、半径十メートルほどの大きな池がある。そのほとりでなにやらゴソゴソと作業をしていたミラノをダリルはすぐに発見した。


「ミラノ室長!」


 ダリルが呼びかけると、ミラノはゆっくりと顔を上げる。顔は土で汚れており、何日も風呂に入っていないのだろう、頭がぼさぼさだ。顔もひどくやつれている。


「ダリルさん……? どうしたんですか、こんな所まで」



「ミラノ室長を手伝いに来ました。一人で作業されているとお聞きしたので」


「そ、そうなんですか? いや、しかし、いいんですか? 仮にも国王の妃でもある方に、こんな土に汚れる作業を手伝ってもらうなんて……」


「ああ。そこらへんは気にしないでください」


 多分、明日にはゼノがダリルとは離婚すると国民に伝えるだろう。なんたって、顔を殴り飛ばしたのだから。プライドの高そうなゼノの事だから今頃、怒りに狂っているかもしれない。
 だからもう、国王の妃ではなくなるのだ。

「どんな状況ですか?」

 ダリルは、ミラノに持ってきた食料を渡しながら尋ねた。

「ここ数日調べていますが、汚染されている原因がまったく分かりません。本来ならば、ここは美しい透明な水で満ちているはずなのですが、ご覧のとおり今は茶色く濁っています」

「そうですね……」

 オアシスの水瓶は、土を混ぜ込んだような汚い色で、腐敗臭を放っている。

「一体何故、いきなりこんなことになったのか。見当もつかないのです」

「そうですか……。最近オアシスの植物を植え替えたなど、そういう出来事はないですか?」

 途端に水が汚染されたとなれば、何か植物に原因があるのかもしれない。

「植え替えをすることはありましたが、もう四カ月も前の事です。丁度そこに植えられている、レン華という植物がそうです」

 ミラノが指さした先には、燃え上がる炎を彷彿とさせる、真っ赤な植物があった。

「初めて見る植物です……」
「ああ、それはブロン国のような乾いた土地でしか生きられない植物です。毒はなく、よく観賞用として使われたりしています」

 また、新しい植物を知ることができた。植物を研究していて一番楽しいのは、新しい植物と出会えることだろう。どのように育っていくのか、どんな成分があるのか。それを発見していく過程が面白くてたまらないのだ。

 しかし、今は一刻を争うほど時間がない。レン華を研究してみたい欲を押さえ、ダリルはミラノの顔を見やった。

「とりあえず、土と、オアシスの水のサンプルをとって、何か異変がないか調べてみます。ミラノ室長は少し休まれてください」

「いや、しかし……」

「十分な休息が取れていないと、絶対にミスに繋がります。それにミラノ室長の体が心配なんです。お願いですから少し休んでください」

 ダリルがそう言うと、ミラノは渋々頷いて簡易的に建てられたテントへと入っていった。

「さてと、やるか」

 ダリルはミラノが休んでいるテントの隣に立てられてある小さなテントへと入った。机と椅子がセットで置かれており、机の上には持ち運び可能な研究セットが置かれている。ダリルは、そこに土のサンプルをのせ顕微鏡を覗き込んだ。




        ◇◇◇◇◇◇






「おはようございます、ダリルさん」

 ダリルはふと、顔を上げた。

「おはようございますって……、あ、もう朝になってる……」

 テントの隙間から差し込む朝日が眩しく感じる。ミラノに声を掛けられるまで、ダリルは研究に熱中していて朝を迎えている事なんて全く気付かなかった。

「よく眠れましたか?」
「ええ、もうぐっすりと」


 ミラノの顔色は昨日よりもだいぶ良くなっている。ダリルはほっと胸を撫でおろし、ミラノの顔を見つめた。優しいミラノの事だから、きっと苦しんでいる国民の為を思って無理をしていたに違いない。気持ちばかりが焦り、原因が見つからないという現状は苦しかっただろう。何としてでも原因を見つけなければ。ダリルはミラノに自分なりにまとめた結果論を切り出した。


「水回りを見てみると、所々植物が枯れていたのでまず土を調べてみたんです。けれど、特に何の以上もありませんでした。あと、考えられるとするば、四カ月前に植えられたレン華、これが原因になっているのではないでしょうか?」

「レン華が? しかし、毒もなくただの観賞用に使われる華ですよ?」

「ええ。けれど僕はノワール国にいた時、不思議な華を見たことがあるのです。成長して、華を咲かせるまでは特に何にも害のない植物だったのに、華を開花させた途端に有毒なガスを放つ植物になってしまう。レン華も見えないところで何か有害なものを放っているのかもしれません」

「そうですか……。では、これからレン華を調べてみましょう。他国から来た植物なので、私も詳しい情報は知らないのです」

「分かりました。では、サンプルをとってきますね」

 ダリルは頷いてテントの外へと出た。
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