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第3章(ダリル編)

第62話

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 中央に置かれているキングサイズのベッドに、ダリルがいる。息が切れ、苦しそうに呼吸を繰り返し、口からは甘い吐息をこぼしている。



「ダリルさん」



 ゼノの呼びかけにも反応しない。ゼノは、ゆっくりとダリルに近づき、ベットの端に腰を下ろした。



「抑制剤です。早く飲んでください」




 ふたを開け取り出した一錠の薬を、ダリルの口にあてがう。しかし、ダリルはその薬をすぐに吐き出してしまった。



 発情期中はまともに思考なんて働かない。薬を自分から飲むなんてできる訳がないのだ。



 ゼノはため息をついて、自分の口に薬を入れ水を含んだ。



「んぅっ」



 ダリルに口づけ、薬を飲み込ませていく。ごくっとダリルの喉ぼとけが動いたことを確認して、ゼノは唇を離した。



 ゼノはそれから暫くダリルの様子を見ていた。しかし、ダリルのヒートは一向に収まる気配がない。



「やっぱり、薬を飲ませるのが遅かったから効かないか」




 そもそも抑制剤は、発情期に入る前に飲むことで、ヒートの効果を押さえられるのだ。発情期の真っただ中で飲んだところで効果は表れない。




 ゼノは頭を掻いた。



 こうなると、もうヒートを収める方法は一つしかないのだ。ゼノはダリルのバスローブをめくり上げた。



 ダリルの欲望は反り返り、今にも爆ぜそうな程膨らんでいる。



 ゼノがダリルのモノを握り込むと、ダリルの体がピクリと反応した。




「だ、大丈夫……ですから……」



 かすかに聞こえた声に、ゼノはダリルを見やる。

     
「ほっといてもらって……かまいません……。ゼノさま、ぼくのこと、きらいでしょ……」



 ダリルはうっすらと涙を浮かべ、ゼノを見ていた。ダリルはやせ我慢しているのだろう。発情期を迎え、体は限界を迎えているはずだ。



「んうっ……」



 ゼノは、そんなダリルの言葉を無視してダリルの欲望をゆっくりと扱いた。



「なんで……、オメガってそうも強がるんですか」



 ゼノの脳内で、一瞬、ダリルと母親の姿が重なった。


「辛いなら、辛いって言えばいいのに……。どうして一人で我慢するんだ……」



 ゼノの手が早さを増した。ダリルが吐き出した先走りの汁も合わさり、卑猥な水音が部屋に響いていく。



「い……あっ、あっ」



 先を擦られ、ゼノによって巧みに扱かれたダリルの欲望は、あっけなく果てた。



「こんなものじゃ、収まらないでしょ」



 ゼノはダリルの上半身を支えて起こした。未だに硬さを保っているダリルの昂ぶりを扱くと、ダリルは悲鳴のような声を上げて逃げようともがき始める。




「逃げたところで、辛いのはあなただ。苦しいかもしれないけど、今出しておかないと、ヒートは収まらない」



「やめてっ! やめてぇ!」



 まるで子供の様に泣きじゃくるダリルを抑え込み、ゼノは欲望を扱いた。射精した後、すぐに欲望を擦られるのはとても苦しいことだ。これは決して意地悪でやっているわけではないのだけど、ダリルからしてみれば地獄のように辛いだろう。



 そうこうしている間にも、ダリルの腰が揺れ始める。



「んくっ……」


 ダリルは唇を噛みしめて我慢しているのだろうけど、そんな抵抗もヒートでは意味がない。


「いやっ…… イっちゃう……イッちゃう」


 ダリルは自分の顔を両手で覆い、激しく腰を揺らしながら二度目の絶頂を迎えた。



 それからも、ダリルの欲望はゼノによって扱かれ続け、回数で言えば五回程、白濁をまき散らした。




「まあ、ようやく収まってきたくらいか……」



 ダリルのモノは、硬さを無くし平常に戻ってきた。ここまですれば、もう心配はいらないだろう。


 ゼノはため息をついて、ダリルを見やった。



 頬には涙を流した跡が付き、お腹には吐き出した白濁がこびりついている。疲弊したのか今はぐっすりと眠っているように見える。



 そんな姿が、再びゼノの母親と重なった。



 ゼノの母親は、オメガだった。ゼノと弟のノアを生んだ後は、夫であるゼノの父親が浮気をしたことにより、愛想をつかし、城を出ていた。しかし、番関係はゼノの父親と結んだままだったせいで、発情期の時はただ一人で苦しむしかなかった。



 ゼノはよく城を抜け出して、母親の元を訪れていたため、苦しんでいる母親の姿をよく見かけた。



「大丈夫だから」



 そう、母親は口にはするけれど、部屋から聞こえてくるうめき声は、とても耐えられたものではなかった。そんな母親の姿を知っているからこそ、ダリルをほっとけなかったのだ。




「ゼノさま……」



 ふと、ダリルに名前を呼ばれた気がした。しかし、ダリルは気持ちよく眠っている。


「寝言か……」



 ゼノは頭を掻きまわしてダリルの顔を見やった。
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