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第3章(ダリル編)
第58話
しおりを挟むじりじりと太陽が照る砂漠の上をラクダで一時間程歩いていると、ようやくブロン国が見えてきた。砂埃で視界が悪いが、金色の装飾を施された建物が遠くに見える。
(目が痛いな……)
ノワール国のシンプルな色合いの城とは違い、ブロン国の城は派手でだった。
「ゼノ様、ノワール国第二皇子、ダリル様が到着されました」
城の中に入り、兵士の一人が声を張り上げると、どこからか足音が聞こえてきた。コツコツと、段々と近づいてきている。そして、奥から一人の男性が姿を現すと、皆男に向かって敬礼をした。
色の抜けた白銀の髪に、こんがりと焼けた褐色の肌。透き通る碧色の瞳。国境ですれ違ったブロン国のオメガにそっくりだ。しかし、あのオメガよりかは体格がしっかりしている。
「は、初めまして。ノワール国から参りました。ダリルと申します」
ダリルは男に向かって頭を下げた。
「ブロン国、第一王子ゼノです。今日は遠いところ、ご苦労様でした。明日には結婚式が挙げられるよう準備を済ませてありますので、今日はお休み下さい」
ゼノは一息にそう告げた。まるで、メモ帳でも読んでいるかのように感情の入っていない言い方に、ダリルは顔を上げてゼノの顔を見やった。
無感情、という表現が一番似合う表情だった。ここにやってきたダリルの事なんか、まるで興味がないという様な態度だ。
「では」
ゼノは頭を下げて、颯爽と去っていってしまった。
(たったこれだけ……?)
敵国に来るのだから愛想をよくしようだとか、失礼のないように気をつけようだとか、ここに来る何カ月も前からずっと気合を入れていたダリルに対して、ゼノの挨拶はあまりにも素っ気なかった。
(き、緊張してるだけかも!)
もしかすると、ゼノはとてつもなく人見知りな性格なのかもしれない。初めて会ったばかりなのだし、第一印象で人の印象を決めつけるのも良くないだろう。
(明るく考えよう!)
ブロン国に来たからには、自分で自分を励ますしかない。もう、相談できる兄、ルーシュもいなければ、周りの使用人たちも自分の知っている人ではない。
(ゼノ王子は、きっといい人に決まってる)
これから生涯を共にしていく伴侶になるのだから、そうじゃないと困るのだ。大丈夫、とダリルは自分に言い聞かせた。
そして翌日。用意された寝室で休んでいたダリルは、朝早く起こされ、花嫁の支度にとりかかっていた。無数の宝石が施された絹のドレスを身にまとい、化粧をされていく。
(ブロン国のドレスはこんな感じなんだな……)
ノワール国とは違い、ブロン国のドレスは生地が薄い。けれど、肌が透け、いやらしいという訳でもない。年中熱い砂漠に囲まれたブロン国らしい衣装だ。
「そろそろ時間なので移動しましょう」
ダリルの髪の毛を整えていた、女性の使用人が皆に声を掛けた。
いよいよ、ダリルの一生に一度の結婚式が始まろうとしている。
式場の裏側に移動すると、既にゼノの姿があった。白色の絹の衣装に、びっしりと刺繍が施された衣装を身に着けている。
(笑顔で、印象を良く見せるんだ)
ダリルはゼノの横に立ち、にっこりとほほ笑んだ。
「衣装、よくお似合いです」
まずは、距離を縮めていかなくてはならない。その為には、会話をすることが必須条件だ。相手にいい印象を持ってもらい、そこから打ち解けていく。
それが、ダリルの思い描く理想なのだが……。
「どうも」
ゼノはダリルの顔も見ずに、そう応えただけだった。
(感じ悪い……)
こちらが寄り添おうとしているのに、ゼノの態度はあんまりではないだろうか。ブロン国もノワール国との同盟を結ぶことを了承したのだし、これから夫婦になる関係なのだから、少しは愛想を良くしてくれてもいいはずだ。
(この結婚、取りやめにできるなら今すぐにでもやめたくなってきた……)
しかし、今更後悔したところでもう仕方がないのだ。ここで、逃げ出してしまえばルーシュの理想が壊れてしまう。それに、ダリルだってもうブロン国とノワール国の間で戦争はしたくないのだ。
「ドアが開きます。入場の準備を」
使用人の声に、ダリルは背筋を伸ばした。ドアが開かれた途端、一斉にブロン国民の視線がダリルに降り注ぐ。
今日から、ダリルの新しい生活がスタートする。不安要素しかない結婚だけれども、きっといい方向に変わっていく。今は、そう信じるしかない。
ダリルはゼノと腕を組み、バージンロードを一歩ずつ進んで行った。
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