転生した先では、僕の結婚式が行われていました。

萩の椿

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第2章

第55話

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温かい日差しがノワール国全体に降り注ぐ。時は過ぎ、ノワール国は春を迎えていた。



今日はノアとルーシュの7回目の結婚記念日である。


「ルーシュ、花持ったか?」
「ああ」


 ルーシュの手には、純白の美しい花束が握られていた。



「じゃあ、行こうか」


 ノアとルーシュは部屋を出て、城の南側にある庭に向かった。庭の中心には、ノアとルーシュが、かつてのノアの為に造った墓があり、その横に、寄り添うようにセルの墓も一緒に立てられている。



 結婚記念日には、毎年こうしてノアとセルの墓に足を運び、食事をするのが記念日の過ごし方になっていた。



「今のところ、ブロン国とノワール国の平和は無事に保たれてるよ」



 ノアは、セルの墓の前にブロン国産の上等な酒を、ノアの墓の前には、かつてのノアが好きだったと噂に聞いた、果実の原液を水で薄めたジュースを備えた。



 かつて、敵国同士だったブロン国とノワール国は関係が修復し、貿易なども盛んにおこなわれている。お互いの国同士が協力し合って商売をしたり、ブロン国とノワール国、出身国が違う者同士の結婚も認められるようになった。



 けれど、それは大勢の犠牲があったからこそ成り立っている平和なのである。お互いの国を守ろうと戦った兵士、ノアやセルもその中の一人である。


 その犠牲を忘れない為に、そしてもう二度と争いを繰り返さない為に、平和同盟が結ばれた日は、記念日となり、犠牲になった人達を想う五分間の黙想が義務付けられた。



「ノア、私達も食事にしよう」


 ルーシュは墓の前に白い布を敷き、食事が入ったバスケットを開けた。



「ああ、お腹すいたな。ていうかメアリはどこだ?」


「鏡の前でめかしこんでいたが、じきに来るだろう」



 ルーシュは笑いながら、バスケットに入っていたサンドウィッチを頬張った。



 六歳となったメアリは今年から学校に通い始めた。勉強が好きで、地頭のいいメアリは一年生の中でも成績はいつもトップである。きっとルーシュの血を濃く受け継いでいるのだろう。しかし、最近は、何故かやたら鏡の前に立ち自分に似合う髪形を模索している。



「ああ! もう食べ始めたの?! 少しは待ってくれればいいのにー!」


 噂をすれば、メアリがこちらに走ってきた。高めの位置で結びあげたツインテールが良く似合っている。


「ごめん。だって、メアリ準備するのに時間がかかるだろ? 待ってられなくて」


 ノアが謝ると、メアリは頬を膨らませた。


「待ってられないって、どれだけせっかちなの……」


「しかし、今日は学校ないはずだろ。そんなにめかしこんでどうする気だ?」


 ルーシュが問いかけると、メアリは顔を赤く染めて頬を押さえた。
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