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第2章
第50話
しおりを挟む「ルーシュ、起きてる?」
ノアはベッドに寝転んだまま隣にいるルーシュに問いかけた。ルーシュから返事はなかったけれど、寝息も聞こえないし、気配的に起きているのが分かる。
「セルとのこと、黙っててごめん。ルーシュを傷つけたくなかったんだ……」
ノアが謝ると、今まで背を向けていたルーシュが向きを変えてノアの顔を見た。
「黙っていられた方が私は傷ついた。夫婦なのだから、包み隠さず話してほしかった」
「うん、そうだよな……ごめん」
愛している人が自分ではない、他の男と隠し事を共有している、そう考えるとノアはルーシュの辛さが分かった。ノアが謝ると、ルーシュはそっと頭を撫でてくれた。
「あのさ……。俺、セルに言われたんだ。ノアを返してくれって」
隠されていた方がルーシュは傷つくと言うのだから、ノアはセルとの出来事をすべてルーシュに話すことにした。
「あいつ、泣いてたんだ。返してくれって何度も……。愛してた人の体に、違う人の魂が入ってたら、嫌だよね……」
小屋で、セルから言われた言葉がノアの脳内にこびりついている。
「俺、このままノアとして生きてていいのかな?」
「何を、言ってる……?」
ルーシュは体を起こし、驚いたように目を見開いている。
「本来ならさ、俺はもう死んでる人間なんだ……。それを、他人の体をこうして借りた状態で……」
「お前にはもうメアリもいるのだぞ!」
ルーシュは力の限りノアを抱きしめた。
「ルーシュ、苦しいよ……」
「このまま私の前から姿を消すなんて、絶対に許さないからな」
セルに攫われてからのノアは、心ここにあらずといった感じで、どこか変だった。そんなノアが、いきなり自分は生きてていいのかと口にし始めた。
ルーシュは不安でたまらなかった。このまま、自分の前からノアが消え去ってしまったら。不安に駆られ、自然とノアを抱きしめる手に力がこもっていった。
その日、ノアはルーシュに抱きしめられたまま意識を手放した。
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