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第2章
第41話
しおりを挟む明朝、ルーシュたち一行はブロン国へと辿り着いた。
先に電報で事情を知ったダリルとゼノが、ルーシュたちをブロン国の城へと出迎えた。
「兄上……、疲れたのではないですか? 少し休まれては……」
「いや、私は大丈夫だ」
ダリルは心配そうにルーシュを見つめた。
ブロン国付近は砂漠で覆われている為、夜になると気温が落ちる。それに、長時間のラクダでの移動となるから、体力も削られているはずなのだ。
しかし、ルーシュは疲れを一切顔に出さず、ブロン国国王のゼノの顔を見やった。 ゼノには、どことなくノアの面影を感じる。色の抜けた白銀の髪の毛や、美しい碧色の瞳は、遺伝なのだろう。
「私がここに来た理由は、電報で知らせた通りです。ノアを攫う人間に心当たりはありませんか?」
「ブロン国の紋章が刺繍されているバックを持つのは、ブロン国の兵士だけなんです。「ブロン国の兵士」と考えた時に、頭に浮かんだ人物が一人います」
「誰ですか?」
ルーシュがせかすようにゼノに聞き返す。
「名前はセル、ブラック。元ブロン国第一軍隊長で、ノアのかつての恋人です」
「恋人……?」
「ええ。セルは長年ブロン国の第一軍隊長を務めた、腕利きの奴です。それが、最近になって突然除隊すると言い出して、理由を聞いても一切口を開こうとはしませんでした。そして、今は行方が分からなくなっています」
ルーシュは隣にいる、リーヌと顔を見合わせた。
「確かに、今はブロン国とノワール国の国境は無くなり、誰でも自由にお互いの国を行き来できるようになっていますし、ただの国民にノア様が誘拐されたということも考えられます」
ルーシュとリーヌは、このノア誘拐事件はノワール国の安全を脅かす者たちによる仕業ではないかという考えが頭にあった。
想像したくはないが、例えば、ノワール国を恨んでいるブロン国の者達が企てた計画、あるいは、他の国が裏でノワールを貶めようと動いているのかもしれないと、想像を巡らせていた。
しかし、ゼノが言うように本当にセル・ブラックがノアを攫ったとするならば、それは私的な理由からなのかもしれない。
ルーシュが顎に手を当てて、考えに耽っていると、前触れもなくドアが開いた。
「ルーシュ様! たった今ノア様を見かけたという情報がっ……。がたいのいい男とノア様が西側のザパト国付近にいるのを見たというものがおります」
ルーシュについてきた兵士の一人が、息を切らして一息に伝える。
「ザパト国に? それは確かな情報か?」
「はい! 何人かがそのような証言をしているので、間違いはないかと」
ルーシュの問いに、兵士は淀みなく答えた。
「しかし、何故ザパト国に……。そんな場所に行く理由が見当たらないが……」
ルーシュが首を捻っていると、ゼノが思い出したように「あっ」と声を上げた。
「確か、母親が西のザパト国出身で、父親がブロン国出身のハーフだったはず。母親の出身であるザパト国の付近に少しだけ土地を持っていると聞いたことがあります」
「なるほど、それでそこに逃げ込んだという訳か」
ルーシュは納得して、再度マントを羽織り始めた。
「朝早くにすまなかったな。今度何か礼でも送ろう」
「兄上! せめて、少し体を休ませてからいかれてはどうですか……」
ルーシュを引き留めようとするダリルの腕をゼノが掴んだ。
「行かせてやれ」
「で、でも!」
「もしも俺が、ルーシュ様と同じ状況だったら。ダリルがいなくなってしまったら。俺も同じように、ダリルを血眼で探すと思うから」
ゼノのまっすぐな瞳を見て、ダリルはその場にすとんと腰を下ろした。
それから、ルーシュたちはブロン国を旅立った。その間、ルーシュ達がブロン国に滞在した時間はたったの三十分たらずであった。
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