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第2章
第25話
しおりを挟む(子どもができることは、めでたいことなのに、こんなにもストレスが溜まって、辛いものだなんて思わなかった‥‥‥。)
妊娠したことによって、ノアはネガティブになることが多かった。食事もまともに取れないことも影響しているのだろうか。
まるで、心が厚い雲に覆われたようにどんよりとした気分で、1日を過ごしている。
正直に言えば、ノアは喜びの感情よりも、不安の方が大きかった。
出産に対する漠然とした恐怖や、自分自身がちゃんとした親になれるのか、など解決しようもない不安がノアの脳内をぐるぐると回る。
毎日、吐き気や倦怠感に悩まされ、気分も暗いから、おのずと明るい考えにはならないのだ。
けれど、ルーシュに「子どもができた」と伝えるときには、笑顔でいないといけないだろう。きっと、その瞬間をルーシュは待ち望んでんでいたのだから。
妊活に励んでいた時、子どもが出来なくて、苦しい顔をしていたルーシュを知っているからこそ、一緒に喜んであげたい。
だから、体調が回復して、落ち着いたときにルーシュに伝えよう。
そう心に決めて、1週間。
「話がある」と、ルーシュに呼び止められ、寝室にあるソファーに、ノアとルーシュは二人きりで向かい合って座っていた。
(なんか、久しぶりに、ルーシュの顔をちゃんと見た気がするな‥‥‥)
最近は、ルーシュと寝室を別にしていた。というのも、夜中、吐き気に襲われることが多く、隣で寝ているルーシュを起こすことが申し訳なかったのだ。
「お前が話してくれるまで、私は待つつもりだったが
‥‥‥。ノア、俺に話さないといけないことがあるんじゃないか?」
ルーシュの鋭い視線がノアを射抜く。
(この顔は、もう知ってる顔だな)
多分、中々ノアが医者の診断結果を言わないから、リーヌに聞いたのだろう。
「‥‥‥ごめんなさい」
「私はお前の口から聞きたかった……。相談できない程、頼りない夫に見えるか?」
「え……、違うよ。ルーシュは悪くない」
ノアが話さないことによって、ルーシュも色々と思いつめていたのだろう。ノアを見つめるルーシュの顔はどこか不安げだった。
「ごめん、俺が悪いんだ。パニックになっちゃって……。ほら、子どもができるって母親になるってことだろ? そんな俺、子どもを育てられるほど出来た人間じゃないし……、怖いんだ」
こんなこと、子どもができてから言ったところでもう遅いだろう。ルーシュが望んでいるから子どもを作ろうだなんて、甘い考えを持っていた自分が全部悪い。
けれど、初めてノアは、ルーシュに胸の内を明かすことができた。
(でも、何でだろう。なんかもやもやする)
「一人で抱え込むな。私もいる。一緒に親になれるように頑張ろう」
ルーシュは優しい。きっと、「子どもができた」とノアからの報告を待っていただろうに、それを水に流して、温かい言葉をかけてくれている。
(こんないい夫、他にいないって分かってるのに)
何故か抑えきれない苛々が募っていき、ノアの中でついに爆発してしまった。
「……分かったこと言うな。大体俺は何日もまともに食事ができていないのに……。お前は元気に何でも食べれてるじゃないか。それに……、子どもを出産するのは俺で、お前じゃない。痛みだって全く味合わなくていいじゃないか」
言わない方が良いと分かっているのに、口から本音が勝手に零れ落ちていく。でも、言い終えた後は不思議とスッキリしていた。
けれど、ルーシュの表情は切なげで傷ついているように見えた。なにか、フォローの言葉を入れた方が良いとは分かっていても、適切な言葉が浮かんでこない。
「ごめん、でもこれが今の俺の本音なんだ」
これ以上ルーシュと話す気になれなかったノアは、静かに部屋を後にした。
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