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しおりを挟む「エマっ!」
その声は突然だった。
飴細工の店を後にし、1度初めの場所に戻ってみようとなりそちらへ移動していた時だった。
その呼び声に振り向く。
「…お母さんっ!」
少女が大きな声で叫ぶ。
「エマっ!…ああ、ああ無事でよかった!」
人混みをかき分け、こちらに向かって走ってきた女性が少女を強く抱きしめる。
「っ!お母さんだ、お母さんっ」
少女が泣きながら自身の最大の力で母親を抱きしめ返す。
「あっ、あのね!お姉ちゃんとお兄ちゃんが一緒にお母さんを探してくれたの」
母親に抱きしめられながら少女はフェリシナとイスマエルの事を必死に話す。
「ああ!ありがとうございますっ!本当にありがとうございますっ」
少女の母親はフェリシナとイスマエルに向き合い、何度も何度も感謝の言葉と頭を下げる。
「そんな。私たちは大したことは何もしておりませんよ。ね、エル。」
フェリシナは穏やかな笑みを浮かべ、頭を下げる女性の肩に手を当てる。
同意を求められたイスマエルは、咄嗟に言葉が出ずに頷くしかなかった。
イスマエル自身は何も見返り等求めないつもりであったが、フェリシナも同じ考えであったことに少し驚いた。
「エマちゃん、お母さんと会えて本当に良かった!」
フェリシナはしゃがみ込み、少女と目線を合わせ微笑む。
「うんっ!お姉ちゃん、お兄ちゃん本当にありがとう!エマね、とっても楽しかったよっ」
これがこの日出会った少女の最高の笑顔だった
――――――――――――――――――――――――
少女と母親はフェリシナとイスマエルと別れる時もその姿が見えなくなるまで何度も振り返り、手を振り頭を下げた。
「…行っちゃったわね。」
「ああ。」
短い時間だったが少女の明るく高い声が聞こえなくなり、少し寂しい空気が漂う。
「…エル、今日は本当にありがとう。無理矢理強引に巻き込んでしまってごめんなさい。」
少女と母親が見えなくなるまで、その方向を見ていたフェリシナはイスマエルに向き合い、頭を下げる。
「…いや、…もう良い」
最初はいきなり巻き込まれて憤りもあったイスマエルだが、今そんな気持ちは露ほど残っていなかった。
「エマちゃんに駆け寄った時にね、あなたが手を差し伸べようと伸ばした手が見えたの。」
イスマエルは驚いた
誰にも気づかれる事などないと思っていた
「エル、あなたって本当に優しい人なのね。」
そう言って向けられるフェリシナの笑みは、イスマエルが出会ってきた人の中で最も美しかった。
美しい
イスマエルは動けなかった
言葉も発することができなかった
イスマエルの中に生まれて初めての感情が生まれる
どんなに緊迫した空間でも緊張などしない
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しかし、今の心高まる感情は一体何なのだ
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