美しきモノの目覚め

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目の前に泣いている少女がいる。

母親とはぐれたのか?

この人混みの中だ。そう簡単にはみつかるまい。


「おっ、おかぁさん、どこぉっ?」

少女の泣き叫ぶような母を呼ぶ声は、祭りでにぎわう声や音にかき消される。
嗚咽が混じり、少女の言葉が言葉にならなくなってくる。

泣いてうずくまる少女の存在に気付いているのは自分だけだろうか?













ロイにはあまりむやみに人に話しかけるなと言われていた。

それもそうだ俺は国王なのだ。顔を知られている可能性もあるのだ、安全のためにも最善の解だろう。


それでも、なぜだろう。その時はなぜか放っておけなかったのだ。

うずくまる少女に声をかけようと近づき、手を伸ばす。






―その時だ―





「あらあら、どうしたの?お母様とはぐれてしまった?」

透き通るような声、帽子を深くかぶっていたが、ちらっと見えた顔立ちはあまりに美しかった。

自分より先に、少女に寄り添い声をかけたのは美しい妙齢の女性だった。


伸ばした手をそっと下ろす。

少女に近づく大人がいたのだ、彼女に任せようと思ったが、イスマエルはなぜか彼女に見とれてその場から動くことが出来なかった。


「…あっあのね…おっ、お祭りに来たらおかあさんっの手を離しちゃって…。…ふぇっ…おかあさんっ」

少女はお祭りに母親と来たようだ。
少し露店に目をとめた際に母親とつないでいた手を放してしまい、はぐれてしまったようだった。


女性は少女を安心させるように優しく頭を撫でる。

「そっか、そうだったのね。一人でよく頑張ったわねぇ。良ければお名前を聞いてもいーい?」

「っふぇ、エマっ…」

少女を安心させるように、ゆっくりと優しく微笑み続ける。

「エマちゃんねぇ、そっかそっか。私はフェリシナって言うの。」


言葉を発した後、顔をあげた女性とばっちりと目が合う。
イスマエルは一度合った視線を逸らすことが出来なかった。

逸らされなかった視線に、女性はイスマエルに向かって美しく微笑む。


「あのね、お姉ちゃんもそこにいるお兄ちゃんも、エマちゃんと同じで迷子になっちゃったの。良かったら一緒にお母さんを探さない?」

イスマエルは何も関係のない自分がまきこまれることに驚愕したが、それより先にフェリシナと名乗る女性がたたずむイスマエルの手を少し強引にとり、引き寄せる。

そして、少女に威圧感を与えないように同じようにしゃがみ込み視線を合わせ、提案する。

「お、お姉ちゃんもお兄ちゃんも…おかあさんと離れちゃったのっ?」

同じ境遇に安心したのか、少女はようやく泣くことを少し止めて聞く。


「そうなの。お姉ちゃんもお祭りを見に来たのにはぐれちゃってとっても不安だったの。」

そう言って、イスマエルに顔を向け、少し頷く。

イスマエルは女性が何を言わんとしているかを感じ取ったため、どう返答しようか迷ったが、
ようやく泣き止んだ少女の期待を含んだ視線をないがしろにはできず、同意する。



事実、イスマエルも祭りに護衛騎士のロイと来ていたが、人の波にのまれてはぐれてしまったのは事実だった。



「エマちゃん、じゃあ立って、お姉ちゃんとお兄ちゃんと一緒にお母さんを探そっか!」

そう言って、女性は少女と手をつなぎ、立ち上がる。


「うんっ!」


少女は少し元気が戻ったのか、元気に返事をして立ち上がり、イスマエルに向かって開いている反対の手を伸ばす。

「はいっ、お兄ちゃん!」












伸ばされた手にイスマエルはどうしていいか分からなかった。

























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