美しきモノの目覚め

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「ああ、ああ!アディリナ勿論だ。しかし、そんな事でよいのか?」

自身の腕に抱え込み、髪を撫で続けながらイスマエルは尋ねる。

「それと、もう一つだけ…。私の護衛騎士は今のままリチャード卿にお願いしたいのです。」


それは、その場にいる全員が驚愕した。


リチャードは絶望に打ちひしがれ、下を向くしかできなかった顔を、勢いよく上げた。



「なっ…アディリナよ、…本当に良いのか?国1番の優秀な騎士を従えることもできるのだぞ?」

今の呪いが解け、イスマエルの寵愛を受けているアディリナであれば、護衛騎士になりたいと志願するものはあまりに多いだろう。

イスマエルも、アディリナが求めるのであれば、自身の護衛であるロイでさえも容易く渡したはずだ。


確かにリチャードは由緒ある騎士家系のクランストン家の生まれである。
しかし、騎士としてその評価が低い事は周知の事実であった。

剣術の強さではない、リチャード自身の意思の弱さ

それは、騎士として主を守るために必要不可欠の要素である。


「はい。私はリチャード卿を信頼しております。彼に傍にいてもらいたいのです。」

アディリナは何の迷いもなく、その言葉を発した。









リチャードはいつだって選ばれなかった

優秀な兄たちと比較され、いつだって選ばれる事はなかった

リチャード自身、努力しなかったわけではない

―しかし幼い頃からずっと、選ばれる事はなかった―







「リチャード・クランストン。貴殿にアディリナ様の護衛騎士としての覚悟はあるか」

今まで言葉を発する事はなかった、イスマエルの護衛騎士ロイ、ロイ・スペンサーが厳しい口調で問いかける。

ロイはイスマエルの乳兄弟であるが、家は騎士の一家ではない。イスマエルと共に有るために、ロイ自身自ら志願し、鍛錬を重ね、この立場を手に入れたのだ。

自分の主人イスマエル最愛アディリナを守る騎士としてリチャードの覚悟を尋ねずにはいられなかった。


リチャードもロイの言葉の重みを全身で感じ取り、思わず恐怖に震えそうになるのをグッと堪えた。





リチャードは幼い頃から選ばれなかった

―だが、リチャード自身も何も選んでこなかったのだ―


覚悟も信念も、主人を守るための力も全然足りない自覚はある。

しかし、リチャードはこの日人生で初めて自分で決め、選んだ。

片膝をつき、顔をあげ声を張る。


「リチャード・クランストンは、自身の全てを賭け、アディリナ様にお仕えいたします。」


リチャードのその言葉にアディリナは嬉しそうに微笑んだ。




――――――――――――――――――――――――






誰にも選ばれなかったリチャードが欲しいと、
初めて選んでくれた自身の主人アディリナ


リチャードはこの日初めて自分の中に生まれた愉悦感に浸った


俺が、この俺が選ばれた!
アディリナ様が、他ならぬ俺を選んでくれたのだ!

今まで出来損ないの自分リチャードはいない。

今のリチャードは、アディリナ様に選ばれたのだ!















――――――――――――――――――――――――



アディリナが行うのは、愛し癒し、その心を自身で埋めるだけ。ただそれだけ。

リチャードは、『自身を守ってくれる存在モノ』だったのだ。





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