公爵様が信じるのは奴隷だけ

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「ご主人様、お手紙が届いております」

部屋をノックし、リアムが手紙を持ってきた。

手渡された手紙の差出人を見て、イザベルは少し考える。

手紙の主はマルシャン家分家の当主からである。
内容を素早く確認した後、イザベルは頭を抱えた。

「…ご主人様？」

その様子に心配そうにリアムが声をかけるが、イザベルの耳にその言葉は届かなかった。





何故だ？

早すぎる。早すぎるのだ。





手紙の内容を簡潔に言うと、次期マルシャン公爵家を継ぐ存在が見つかったのだ。

イザベルと同じ邪を清浄化できる力を持つ子供である。

幼いイザベルのその力が発見され、マルシャン公爵家に養子に入った際のように、その子供自身には選択権は一切なく、マルシャン公爵家に来るしかないのだ。





かつて1度目の人生でもその子供が見つかり、マルシャン公爵家に来た。
しかし、それはイザベルが死ぬ半年前だ。

こんなに早いタイミングではないのだ





イザベルは訳が分からなくなってきた。

自身で死を回避するために、かつて歩んだ道と異なる選択をしてきた。

その行動が自身の死を回避させているはずだと信じてきたのだが、この子供が見つかったという事は死が近づいているのか？

それとも、向かう道の変化によってその子供が見つかるのが早まっただけなのか？



イザベルの心中であらゆる考えが出てきては消えていく。


悶々とした想いが心中をを支配している中、イザベルを現実に引き戻したのは、イザベルが自ら運命を変えようと選び取ったものである。


「ご主人様っ」


リアムの少し大きな声がイザベルの脳内に響き渡った。

「…ああ、すまない」

「いえ…ご主人様どこか体調がすぐれないのですか？」


イザベルを気遣うリアムや奴隷たちの様子がイザベルを安心させる。



―この選択を選んだ自分は間違っていないのだと―



私を死に追い込んだのは、裏・切・り・だ


それさえなければ、決して私が死ぬことはないはずだ






「いや、大丈夫だ。リアム、1室部屋の準備をしてくれ」


いつもの口調に戻った主人の様子に、リアムは静かに安堵の息を吐き、その言葉に同意の頷きをする。


「承知いたしました。お客様がいらっしゃるのでしょうか？」



そう問いかけるリアムが驚きに目を見開くまであと数秒。



「いや。…私の息子？となるものだ」