公爵様が信じるのは奴隷だけ

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朝食を終えた、イザベルは食堂へと奴隷たち全員を集めた。


「昨日も伝えたが、これからお前たちにはこのマルシャン家で、使用人として働いてもらう」

そう示し、新たに昨日購入した4名に目を向ける。



「ナインには、ラウルと共にこの屋敷の警護にあたってもらう。そして、ネアとノアはリアムと共にこの屋敷の運営をしてもらおうと思っている」

その言葉にラウルとリアムは同意の意味を込めて頷いた。


そして一番端に並ぶのは、昨日には見ることができなかったその両足で立つ子供だった。
イザベルは初めてその子供をまっすぐに見据えた。

「お前の名は何というのだ？」


イザベルの問いかけに子供はすぐには答えることはなかった。
そして、子供は首を傾げる。



「…自分のなまえ、…ない…です」

それがさも当然という風に子供は答えた。



そんな返答に今度は驚いたイザベルの方が首を傾げる他なかった。

「…名がないだと。…そんなことがあるものか」

そうイザベルが言葉を返すが、子供はいまだ首を傾げたままだった。


「ご主人様」

リアムがそんなイザベルの様子に口を挟む。

「生まれながらに奴隷であったり、幼い頃から奴隷であればよくあることなのです。」

そうリアムの言葉を聞くが、やはり驚きは消え去らなかった。


「ご主人様が名前を付けてはどうでしょう？」

ラウルがそんなイザベルの様子をみて言葉にする。


その言葉を聞いた子供の瞳が嬉々と光を持つ。

「ご、ごしゅじんさまに名前…もらいたいです」

期待に煌く視線にイザベルは戸惑う。


自分が誰かの名をつけることも初めてだったし、期待を含んだ視線を向けられるのもあまりに久しぶりだった。




「…二コラ」

そう小さく口に出した。
それはイザベルが幼い頃大事にしていた人形の名前だった。
その人形はこのマルシャン家に来るまでイザベルの孤独を和らげてくれる唯一だった。

子供とその人形は似ても似つかないが、同じ漆黒の瞳を持つ所以か、それでもその名前が一番にイザベルの脳裏に思い浮かんだ



「二コラ。…お前は今日から二コラと名乗りなさい」




「…二コラ」

そう一度呟いた子供は、それから何度も何度もその名を繰り返した。


「二コラ！…二コラです、ご主人さま！」

そう言って、二コラは興奮が抑えきれないように両の手をぎゅっと握りしめた。


「…ああ。…リアム、二コラの面倒も頼めるか？」

二コラの様子に戸惑うイザベルはリアムに声をかけた。


「はい、もちろんです。」

リアムは当然のようにイザベルの言葉に同意を示す。


1度目の人生でも味わうことがなかった困惑に耐え切れなくなったイザベルはリアムの同意を見て、席を立ち食堂から出ていこうと足を速めた。



「ご主人さま…ありがとうございます！」



その言葉にイザベルは軽く振り返る。

小さな小さな体で精一杯頭を下げる二コラの姿





「…私を決して裏切ることは許さない」

そう言って、イザベルは食堂の扉をひねり、部屋から出ていった




イザベルが小さく呟いたその言葉



今日の奴隷たち全員にはその言葉が耳に届いていた